帰ろう、
の意思に関係なく時折頭の中に響く声は、間違いなくの記憶のかけらだ。そう思うようになったのは、次の行き先をココット町と定めてから間もない頃、どうしても腑に落ちずにがカラスミにした質問がきっかけだった。 「カラスミ様、どうしてココット町に……の生まれ故郷に向かうのですか。」 もちろん異論を唱える意図は全くなかったが、それでもカラスミの決定に後から口を挟むなどそうないことだったから、内心はどきどきしていた。 「『これが片方の鍵だ』と、その言葉は俺がお前にブラックキーを見せた時にひらめいたと、そう言ったな?」 カラスミは気分を害する様子もなく、に問い返した。はい、と答えるにカラスミはうなずく。 「。お前はおそらくホワイトキーのことを知っている。」 「えっ!?」 「お前を拾った時、実は俺たちは禁貨ゴーグルらしき物があるとのうわさを聞いたからココット町に来ていたんだ。その時はまだ二つの鍵のことも知らなかったし、情報があまりにも少なく不確かだったから、いったん退いた。お前という戦力を得ただけで、良しとした。」 はカラスミが語る事実に戸惑いを隠せずにいたから、戦力として認められ誉められたことに最初気付かなかった。気付いて、ぽっと赤面した。そして礼を言う間もなくカラスミは、これは俺の推測だが、と言葉を続ける。 「お前は多分、ブラックキーと共にホワイトキーを見たことがあるのだろう。俺がブラックキーを見せた様子が偶然その過去と一致して、あの言葉を思い出したんじゃないのか?」 尋ねられたところでは否定も肯定もできなかった。というのはカラスミも分かっているようで、ふっと笑い、あくまでも可能性の話だ、とつけ加えた。 「もちろんお前が全てを思い出せればいいが、そうもいくまい。とにかくココット町には禁貨ゴーグルに関わる何かがある、かもしれん。他に手掛かりもない以上、ココット町を優先して調査する。これで答えになったな?」 はい、とはうなずいた。よく分かった。ココット町に行く理由も、の記憶さえ戻ればカラスミの探索が大進展する可能性があるということも。 の意思に関係なく時折頭の中に響く声は、間違いなくの記憶のかけらだ。そう思いたかった。そう思い込めば本当に記憶を取り戻せるのではないかと、は必死だった。なんとかして記憶のしっぽをつかんで引きずり出して、カラスミ様の役に立ちたい。 その切望がぐるぐるともどかしく頭の中を巡っていた頃、カラスミ一行はココット町に到着した。 ![]() ココット町はなだらかな傾斜の土地に発達した町だった。中央部には町の象徴的存在だろうか、大きな白い教会が佇み、家々はゆるやかな斜面に生えるように建っている。東の山側から西の平野にかけて、町を二つに割るように河が一本流れており、それが町と外界をつなぐ大動脈の役割を果たしていた。 にとっては、初めて訪れる町に他ならなかった。 たちは町の外れの高台から、眼下のその景色を眺めていた。 「いい景色でしゅね。町が全部見渡せるでしゅ。」 「ここで合図の火でも燃やせば、どこにいても気づけそうだな。」 タンタンメンがそう言うと、モッツァレラが首をかしげる。 「合図って何の合図よ。」 「さあな。例えば誰かがはしゃぎすぎで迷子になった時とかに必要になるやつじゃないのか。」 「なんですって! 誰が迷子になるっていうのよ!」 「別に誰とは言ってないだろう?」 きーっと怒りもあらわにタンタンメンに食ってかかろうとするモッツァレラと、上手く言いくるめた優越感にふふんと笑うタンタンメン。今回二人を止めたのは、すっと四人の横に立ち、町を一望したカラスミだった。 「二手に分かれ、ホワイトキーの手掛かりを探索しろ。」 彼は四人にそう命じた。小さな獣たちはじゃれあうのを止め、さっと背筋を伸ばしカラスミの方を向いた。 「特には記憶をたぐり寄せ、尽力するように。」 カラスミの言葉に、は強くうなずいた。尽力――もちろんだ。今さら言われるまでもない。 「カラスミ様はどちらへ?」 タンタンメンの問いにカラスミはふむ、と低く重い息をかすかに吐き、 「確かめたいことがある。」 とだけ答えた。 「日没後、町の中央教会の前で落ち合わせる。吉報を期待しているぞ。」 そうしてカラスミは一足先にその場を立ち去った。 「さて、二手に分かれてとのことだが。」 「どうしましゅか?」 「一番手掛かりに近いのはだから、に決めてもらいましょ。」 三人が一斉にの方を見た。 「じゃあ、、よろしく。」 「一緒に行こう、。」 「がいいな。」 ←BACK ![]() |