が言った瞬間、タンタンメンとモッツァレラは異口同音になんでこいつと! と叫んだ。
「んもうー。こうなったらさっさとホワイトキーの情報入手して、さっさと終わらせるんだから。」
「まったくだ。ふらふら寄り道してオレの足を引っ張るんじゃないぞモッツァレラ。」
「誰が足を引っ張るですって!? あんたこそあたしの邪魔しないでよね。」
 ぎゃあぎゃあ口げんかしながら出発したタンタンメンとモッツァレラの背中を見送って、とピロシキは互いに肩をすくめた。
「悪いことしちゃったかしら。」
「さあ。あれで結構楽しそうでしゅから。」
 ふふふと二人は笑い、じゃあ達も行こっかとが言ったところで歩き始めた。

 ココット町は静かな町だった。二人が探索を開始した町の東のはずれにはいくつもの果樹園が広がっており、二人はその中に設けられた道を進んだ。そして果樹園で働いている人や、近くを歩いている町人などに話しかけてはホワイトキーの手掛かりを探ったが、それらしいものは一つもなかった。二人が得られた情報といえば、町はずれの果樹園ではこの地域特産の果物を作っていること、特にその幼実を漬物にしたものはココット漬と呼ばれこの町の名物であること、町の中央にそびえる大聖堂への行き方、今夜からの天気予報は下り坂、ぐらいのものであった。
「ふわああ、全然だめでしゅねえ。疲れたでしゅー。」
 達の中では一番身体が大きく、滅多なことでは音を上げないピロシキが、とうとうため息をついたのは、聞き込みを重ねながらにぎやかな商店街までやって来て、そこでの調査もあらかた終えた頃だった。はもうかなり前からその言葉に同感である。
「あっ、。あっちに公園があるよ。あそこで少し休まない?」
 異論のあるはずがなかった。
 それは小さな公園だった。入り口すぐのところにブランコがあり、その奥にすべり台、砂場、鉄棒。遊具はそれで終わりで、隅の方に水飲み場と長椅子があった。人は誰もいなかった。とピロシキは水飲み場まで行くと順番にのどを潤し、並んで長椅子に腰かけた。
「疲れたねえ。」
「疲れたあー。」
 同時にため息をついたきり、二人は会話をする元気もなく椅子に身を預けてしばらくぼんやりした。
 薄く曇った空から降り注ぐ日差しは強すぎず弱すぎず、疲労した体をやわらかく包んだ。目を閉じると、風の音がおやすみと言っているように聞こえてくる。日没までは、まだ時間があるだろう。ここで少し眠って体力を回復するという選択も悪くないと、きっとカラスミ様だって言ってくれるはずだ……。
見て。ちょうちょが飛んでる。」
 ピロシキのささやきが体に響いて、は目を開けた。いつの間にかはピロシキにもたれかかっていた。それでささやきでも響いて聞こえたのだ。一瞬だけ意識をなくしていたのか、それともだいぶ眠っていたのだろうか、いずれにせよ公園に入って来た時よりも体はいくぶんか楽になっていた。
「ちょうちょ……どこ?」
「ほら、あそこの花壇。白い小さいのが二匹。」
 ピロシキが指した先に、なるほど小さな白い点が二つひらひらと舞っていた。といってもそこは花のない花壇だった。やがて咲く時を待っているのか、それとももう誰も手入れをしていないのか、くすんだ赤色のれんがで区切られたその地面には、園芸植物とも雑草ともつかぬ短い葉がいくつか生えているだけだった。
 ピロシキは立ち上がり、花壇に歩み寄った。それからしゃがみこみ、淋しく風に揺れる草の横に手を置くと、ゆっくり息を吸った。土に触れているピロシキの手の平を中心にして、一瞬地面がふわりと光ったように見えた、と思う間もなくそれまで葉だけだった植物が次々につぼみをつけ、花を咲かせ始めた。
「わあ……。」
 あっという間に、花壇は色とりどりの花で満ちた。
「すごいね。腕上がったんじゃない。」
 のもとに戻って来たピロシキにそう声をかけると、ピロシキは照れたような申し訳ないような笑みを浮かべた。
「もともとつぼみのついている草ばっかりだったからでしゅよ。それに、こんなことばっかり上手になってもしょうがないし。」
 の隣にどっかりと腰かけ、ピロシキはため息をつく。
「もっと上手に氷を扱えるようにならないと……。」
 炎と氷。使っている武器は正反対のものだが、ピロシキもと似たようなことで重圧を感じているのだった。はなんだか少し嬉しくなって、だってもっと炎の修行を積めって言われてるよ、となぐさめた。
が、もっと?」
 意外そうな顔でピロシキは答えた。
はとっても強いでしゅよ。カラスミ様も、そう言ってたし。」
「カラスミ様が?」
「うん。が秘めている炎の力は計り知れない……って。僕は、がうらやましいでしゅ。その力で、カラスミ様の役に立つことができるから。」
「カラスミ様が……。」
 そんな風にに期待を寄せているとは知らなかった。はピロシキにかける言葉を探すのも忘れて、心の底から静かにこみ上げてくる喜びをかみしめた。ピロシキはそんなの様子が分かったのだろう。黙って微笑んでいてくれた。
、ありがとう! なんだかすごくやる気出てきた!」
 の疲れは一気に吹き飛んだ。ばっと立ち上がると、まだ座っているピロシキにさあ行くよと声をかける。
「絶対ホワイトキーの手掛かり見つけるぞー!」
「ま、待ってよう。」
 駆け出したをピロシキは慌てて追いかけた。去り際、彼がちらと花壇の方に目をやると、二匹の蝶がまるで礼を言うかのように花の上を舞っていた。ピロシキは小さく手を振ると、と共に走りだした。



To be continued...

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