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 ツツケラたちはマシュマロ袋をぶら下げて、アスファルトで舗装された道の上を、大輪のハイビスカスが咲き誇る植え込みの側を、ビーチにいくつも並んだパラソルのすき間を、びゅうんと飛んでいく。驚く人たちに「ごめんなさい!」「ツツケラにいたずらされちゃってて!」と声をかけながら、とハウとポケモンたちもハウオリシティを駆け抜けた。
 一度などは、花壇で女の子とキュワワーが遊んでいたところにツツケラたちが突入し、ちょうどそこにのドデカバシのタネマシンガン(弱)がぶち込まれたものだから、場は騒然となった。悲鳴を上げる女の子、作っていた花輪レイを手放すキュワワー、タネマシンガンが命中してはじけ飛んだマシュマロ。
 は慌てて謝り女の子をなだめたが、キュワワーは案外けろっとしていて、散らばったマシュマロを拾い集めると、花と一緒にレイに仕立てあげてしまった。おしゃれでふわふわな輪っかに、女の子は泣きだしそうな表情を一変させて大喜びだ。
 マシュマロ・レイを首にかけた少女に、とハウはあらためて「びっくりさせてごめんね」と謝り、ツツケラとの鬼ごっこを再開した。
 マシュマロ袋は、一つ取り返した。一つはレイになった。残るはあと一つ。
 とハウはハウオリシティの交番前にたどり着いた。ツツケラたちは交番の横に生えている大きな木の中に吸いこまれていく。どうやらここがゴールらしい。
「おーい、ツツケラー。マシュマロ返してよー。」
 ハウが呼びかけても、ピィともチィとも答えず、葉陰に隠れて姿も見えなかった。
「どうしよう……。これ以上追いかけるのもなんだか気の毒だし、諦めるー?」
 困ったように頭をかいて、ハウが問う。隣でライチュウも同じ顔をしていた。正直なところ、もずいぶん疲れてしまった。マオに託してきたケーキも、そろそろ焼きあがる頃だろう。
「ハウオリまで来ちゃったことだし、マシュマロ買って、帰ろうか。」
 二人が苦笑した時だった。
「いてっ!」
 突然ハウが頭をおさえた。
 どうしたの、とが口を開こうとした時、ぴしっ! の頭にも何か降ってきた。
「いたっ! 何……!?」
 それは植物の種だった。タネマシンガンだ。が上を見たのと、のドデカバシがいきりたった大声を出して技の構えに入ったのとは、ほぼ同時だった。
「ドデカバシ!?」
 ドデカバシはの指示を待たずに、交番横の木に向かってロックブラストを繰りだした。射出された石の弾丸が、たちを狙って降り注ぐ種の群れを次々にはじき飛ばす。石弾の勢いはタネマシンガンの狙撃手に届くまで衰えなかった。
 ケララッパが一羽、悲鳴を上げて木の中から飛びだした。たぶんツツケラたちの仲間だろう。ボスかもしれない。
 ツツケラを追われて怒ったケララッパと、トレーナーを攻撃から守ろうとするドデカバシが、空と地上でにらみあった。
「なんだなんだ、どうしたきみたち、大丈夫か!?」
 騒ぎを聞きつけ、交番からお巡りさんが一人飛び出してきた。かっぷくの良い中年男性だ。すぐ後ろにはブルーを連れている。
 たちはケララッパを刺激しないようにゆっくり木から離れると、お巡りさんに事情を説明した。ツツケラにマシュマロを取られてしまったこと、ツツケラを追ってここまで来たこと、ケララッパにタネマシンガンで威嚇されてお騒がせしてしまったこと。
 状況を理解したお巡りさんは、二人に双眼鏡を貸してくれた。
「少し前からこの木にツツケラの群れが住み着いてね。全部で七羽。たぶん、きょうだいだと思うんだけど。最近、そのうちの一羽がケララッパに進化して、巣をかけ始めたんだ。」
 お巡りさんの言う通り、枝葉の中、三羽のツツケラが隠れて固まっている側に巣らしきものがあるのが、双眼鏡のレンズ越しに確認できた。双眼鏡をハウに渡すと、おーいるいるーとハウも同じ光景を目にしていた。
「ツツケラたちはやっぱりきょうだいが気になるんだろうねえ。みんなで一生懸命巣作りを手伝っているのさ。マシュマロも巣材にするつもりで持っていったんじゃないかな。」
「マシュマロを巣材に、ですか。」
「そうなのです。どうやら白くてふわふわした巣材が好きみたいだねー。」
 答えたのは女性の声だった。とハウが振り返ると、ブロンドの長髪を絵の具で彩った女性が交番から出てきて「アローラアローラ」と微笑んだ。ポニ島のキャプテン、マツリカだった。
「わー、奇遇だねマツリカ! アローラ! メレメレ島に来てたんだー。」
「うん。今日はくんたちとお菓子作りができればいいなって思ってたからね。でもその前にどうしても、ここのケララッパの巣をスケッチしたかったの。ちょうど今日あたり巣作りの佳境だそうで。」
 聞けばマツリカは、ハウオリ交番のお巡りさんと親交があるらしい。
「俺とマツリカちゃんがブルー友達なんだ。似顔絵も描いてもらったもんな。」
 お巡りさんがブルーの頭をなでると、ブルーも得意げにぴょんと跳ねた。交番横の木に巣をかけたケララッパ一族のことは、ブルー談義の傍らお巡りさんがマツリカに話していたそうだ。
 とハウはマツリカにも自身らの状況を説明した後、マツリカのスケッチブックを見せてもらった。そこには生い茂る木の葉に守られるようにして一生懸命に巣を作るケララッパの姿が、丁寧に描かれていた。
「やっぱりマツリカの絵はすごいなー。」
 感心しきりでスケッチブックを返すハウに、マツリカは「ありがとー」と嬉しそうな様子だった。
「おーい、ー! ハウー!」
 その時、アセロラの声が聞こえた。
 見ればアセロラとスイレンが、こちらに駆け寄ってきていた。彼女らに先行して、三羽のツツケラが木の中に逃げ帰るのも見えた。彼らを迎えるためか、ケララッパもドデカバシとのにらめっこを止め、ぴゅっと巣に戻った。アセロラはマシュマロ袋を一つ持っていたから、どうやらたちと同じく三分の一は奪還に成功したようだ。
「あら、マツリカさんもお越しだったのですね! アローラ!」
「マツリカもマシュマロを追いかけてくれてたの?」
 たちはスイレンとアセロラに順を追って状況を説明した。
 アセロラたちも一番道路逃走劇の果てにここまで至った経緯を話してくれた。リリィタウンまでは行かず、ぐるりと大回りをしてハウオリシティにやって来たそうだ。アセロラの隣でユキメノコがくったりしていたので、あのはしこいツツケラたちにかなり翻弄されたとうかがえる。
「それにしても、変わったツツケラですね。マシュマロを巣材にしてしまうなんて。」
「こないだなんてどこかからモンメンをたくさん運んできて、大変だったんだぜ。嫌がったモンメンが一斉に風を起こして、道行く人の帽子とか郵便屋さんの手紙とかが、巻き添えでぶっ飛んじゃってさ。」
「そ、それはお疲れ様でした……。」
「白くてふわふわのものは、なかなか見つけるのが難しいのかもしれないね。」
「白くてふわふわ……。」
 あ! と出し抜けに声を上げたのはスイレンだ。
「それならあれがいいんじゃないでしょうか、さん。」
 ニャースたちの、とスイレンが言葉を続けたところで「ああ!」と先にハウが合点した。
、あれだよー。ニャースたちがぼろぼろにしちゃったクッション!」
 それでも理解した。あのクッションの中身を巣材として提供すれば、ツツケラたちは無茶な巣材集めを控えてくれるのでは、とスイレンは提案しているのだ。がうなずいたのを見て、ハウは巣のかかっている木に一歩近づいた。
「おーいツツケラ、ケララッパー! おれたちに付いておいでよ! モンメンよりマシュマロより巣材にぴったりの白くてふわふわなもの、たくさんあげるよー。」
 ツツケラたちが顔を出してこちらをのぞいた。ケララッパの両脇に三羽ずつ頭を並べて、葉の間からこちらをのぞいている。けれど相手はさっき追いかけっこをしたばかりの人間だ。まだ警戒のほうが先立っているのだろう。降りてはこなかった。
 しびれを切らしたのは、のドデカバシだった。白くてふわふわの巣材に興味をひかれつつも、ぐずぐず動こうとしないケララッパたちに、グワアーッと一喝、大声を響かせた。そのまま二、三言ガァガァと続けていたから、ドデカバシなりにケララッパたちを説得してくれているのだろう。やがてケララッパたちは顔を見合わせた後、そろって木から飛び出して、たちの足元に降り立った。ツツケラたちがピィ、チィ、パッと順番に鳴いて、白くてふわふわの巣材が欲しい意思を伝える。
「可愛いー!」
 ちゃっかりアセロラに頭をなでてもらって目を細めているツツケラもいた。
「巣に持っていっちゃったマシュマロは、俺が回収しておくよ。衛生上もあまり良くないだろうからね。」
 お巡りさんが申し出てくれたので、たちはありがたく任せることにした。
「ところで、遅くなっちゃったけど、わたしもくんの家、行ってもいいかな。お菓子作り、やることまだ残ってる?」
 マツリカが尋ねた。
「ああ、大変な仕事が一つ残っているのです。マツリカさんが加勢してくださってさえ、わたしたちの手に負えるかどうか……。」
 スイレンが大げさに頭を抱えてみせた。それから少し緊張した面持ちのマツリカに向かって、にこーっと口元に大きな弧を描く。
「盛りつけと、試食なのですけれど。」
 スイレンの笑みはマツリカに、それからとハウとアセロラにも拡がった。
「それは大変だ。ポニ島キャプテンマツリカ、誠心誠意、挑みます。おー、ゼンリョクゼンリョク!」
 頼もしいマツリカの言葉に、一同は拍手を送った。



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