とハウが二枚目に写す人物として決めたのは、メレメレ島のキャプテン、イリマだった。二人は一番道路を並んで進み、ハウオリシティにあるイリマの自宅を目指した。
「こうして一緒に歩いてると、本当にまた島巡りしてるみたいだねー。」 覚えてるー? とハウは旅立ってすぐの頃のことを楽しそうに話す。じーちゃんのケンタロスが道をふさいでて、通るのが大変だったこと。リーリエと三人でハウオリシティに入って、観光案内所やマラサダショップを見て回ったこと。 「はトレーナーズスクールでいろいろ勉強した後だったよねー。」 と、ちょうど通りがかったスクールの建物に顔を向けたハウが、あー! と大きな声を出した。 「イリマさんいたー!」 トレーナーズスクールの校庭に設置されたバトルフィールドに、イリマとスクールの生徒が向き合って立っていた。バトルフィールドは一番道路に面しているので、ここからでも様子がよく見える。イリマと生徒の間にいるのはドーブルとトランセルだった。ポケモンバトルの真っ最中だ。 とハウは顔を見合わせてうなずくと、スクールの入口へ向かった。 建物の中から回りこんでバトル場に顔を出すと、ポケモンバトルはちょうど大詰めだった。 「トランセル、糸を吐く!」 「糸に向かって火の粉を出してください、ドーブル!」 「ええっ、火の粉!? ドーブル炎タイプじゃないのになんで、わあああ。」 生徒が慌てているうちに、ドーブルが散らしたしっぽの分泌液が燃えあがり、糸を伝ってトランセルを焼いた。倒れたトランセルに、審判役の先生から戦闘不能の判定が下される。生徒は残念そうにトランセルをボールに戻した。 「ありがとうございました。やっぱりイリマさんには敵わないなあ。」 「こちらこそ、ありがとうですよ。良いバトルでした。しっかり守りを固めて勝利に向かう戦略は上手く練られていましたね。ドーブルの特異性についてですが……」 イリマの解説をバトル相手の生徒はもちろん、周りで見ていた他の生徒も、審判役の先生でさえ、興味深く聞き入っていた。イリマは頼りになるみんなのキャプテン、そしてトレーナーズスクールの先輩だ。 人とポケモンが共に輝くための一つの技術、ポケモンバトルの手法と神髄が次世代に受け継がれる瞬間を、とハウはにこにこと見守った。 「イリマさん、アローラ。」 話が一段落したのを見計らって、ハウがバトルフィールドに近づいた。もそれに続く。二人の姿を目にしたイリマは、ぱっと表情に暖かな色の花を咲かせて「アローラ」を返した。 「ハウさん、それにさんも。どうしたんです? 初心のおさらいですか?」 「それもいいけどー、イリマさんの家に行こうと思ったら、バトルしてるのが見えてねー。会いにきたんだー。」 「ボクにですか? それは嬉しいですね。何かご用事でしょうか。」 とハウはリーリエへの手紙を送ろうと考えていること、その手紙にアローラのみんなの写真と寄せ書きを同封しようとしていることを説明した。 「だから、イリマさんのコーチングが終わるまでおれたち待ってるからー、後で写真を撮らせてくれると嬉しいなー。」 「なるほど、そういう訳でしたか。素晴らしいアイデアですね。しかし待っていただくには及びません。」 さん、と突然イリマがの方に向き直った。 「ボクとポケモンバトルしていただけませんか。練習ではなく、一対一の真剣勝負です。」 うわあっイリマさんの真剣勝負! と歓声をあげたのは周りにいた生徒たちだった。それは授業としてもかなり価値がありますねと、先生も乗り気だ。 「そしてボクたちがバトルしている姿を、写真に収めていただきたいのです。どうでしょうか、さん、ハウさん。」 はハウを見た。ハウはスクールの生徒たちと同じわくわくした表情で、うなずいた。 「おれー、とイリマさんのゼンリョクバトル、見たいなー!」 ハウの賛成が確認できたので、はイリマのほうに向き直り、ぺこりとお辞儀した。 「よろしくお願いします、イリマさん。」 イリマがにっこりと微笑んだ。 ロトム図鑑をハウに預け、とイリマはバトルフィールドの両端で対峙した。審判は先生が買って出てくれた。生徒たちは思い思いの場所に席を取り、バトルの開始を待っている。いつの間に情報が伝わったのか、校舎の窓にも二人の試合を観覧しようとするいくつかの顔が見えた。 イリマは対戦相手にジュナイパーを指名した。 「以前からずっとお手合わせ願いたかったんです。キミの島巡りのパートナーがどこまで強くなったのか、この目で確かめたくて。お受けいただけるなら、ボクはデカグースを出します。」 ボクだけ対戦ポケモンを知っているのは不公平ですからね、とイリマはウィンクした。 「相手にとって不足ありません。」 は答え、ジュナイパーのモンスターボールを握りしめた。 「出番だよ、!」 「デカグース、よろしくお願いします!」 深緑の葉と堅牢な樹皮の色をした羽毛を逆立てるやばねポケモンと、金色のたてがみの奥から鋭い眼を光らせるはりこみポケモンが、向かい合って吠えた。 「イリマさん、手加減しませんからね。」 「望むところですよ、さん。」 二人の闘志がばちっと交差したところで、審判が試合開始を宣言した。 「行くよ、リーフブレード!」 「刃を捕まえて噛み砕いて、デカグース!」 植物の生命力をまとわせ斬りかかったジュナイパーの風切り羽を、デカグースが大あごで受け止めた。両者、その場から一歩も動かないつばぜり合い。うなり、にらみ、互いの力を相手に見せつけた後、同時に跳びしさって距離を取った。おおおっ、と観衆がどよめく。 「力は互角のようですね。しかし長くは持ちませんよ。デカグース、今度は脚を狙って!」 イリマの言う通りだ。悪タイプの技はジュナイパーにとって効果抜群。すでに猛スピードでジュナイパーに突進してきているあの攻撃をかわし、牙を奪うには。 「フェザーダンス!」 数多の羽毛が宙を舞い、ジュナイパーとデカグースの間に散った。ジュナイパーが踊るように脚や翼を動かすと羽毛はさらに量を増し、デカグースの視界から狙いを隠し、開けた大口からのぞく牙に貼りついた。たまらずデカグースはジュナイパーに食らいついたのも早々に、不愉快そうに咳きこみながらイリマの元へ戻る。 逃がさない! とはいえリーフブレードではまた刃を取られる危険がある。一瞬ためらったの不安を、ジュナイパーが振り向いてすくいあげた。覚悟はできてる。相棒の目が告げていた。は口角を上げた。 「デカグースを追いかけて、! ブレイブバード!」 勇気のオーラをまとったジュナイパーが、弾丸のように低空飛行してデカグースに迫った。 「後ろから来ています、避けて!」 叫んだイリマの指示がデカグースに届くよりも早く、ジュナイパーの突進がデカグースを捕えた。 吹き飛んで倒れたデカグース。ジュナイパーも反動でひっくり返った。どよめく生徒たちの声。誰の一指も動かない静止したバトルフィールド。 ぴくり、と止まった時を動かしたのはのジュナイパーだった。翼で大地を押し、頭をもたげ、ジュナイパーはわずかに繋ぎとめた体力でゆっくりと起き上がった。 審判が倒れたままのデカグースに駆け寄り、その様子を観察した。 「デカグース戦闘不能! さんの勝ちです!」 わあっと生徒たちが沸き立った。称賛と拍手がバトル場の周りや、校舎の窓から降り注ぐ。イリマびいきの子のちょっぴり残念そうな声も聞こえた。 はジュナイパーの側へ行くと、負傷を恐れず戦ってくれた相棒を抱きしめ、羽毛に顔を埋めて頬ずりした。 「ありがとう、! よく頑張ったね。」 ジュナイパーはくるくると喉の奥で声を鳴らして、に体を預けた。 デカグースを労い、ボールに戻し終えたイリマがとジュナイパーに近づいた。 「参りましたよ。素晴らしいバトルでした。キミもジュナイパーも、本当に強くなった。」 「イリマさんとデカグースもとても強かったです。ぎりぎりでした。ありがとうございました。」 二人は互いの健闘を称え、がっちりと固い握手を交わした。 ハウとロトムが駆け寄って、お疲れ様ー、写真ばっちり撮れたロト! と二人に声をかけた。 「はい、ハウさんたちもありがとうございました。どうですか、もしこの後お時間があれば、ボクの家でティーでもいかがでしょう。撮れた写真をゆっくり拝見したいですし、寄せ書きも書きたい。」 「わー、いいのー?」 「イリマさんさえ良ければ、ぜひ。」 そういったわけで、イリマがスクールのみんなに先の試合の簡単なレクチャーと挨拶を終えた後、三人は連れだってイリマの家へと向かった。 次(3.イリマの写真 後編)→ ←前(2.ハウとハラの写真) 目次に戻る |