*3*


 たちは三人のバンカーを追い、城の近くの浜辺まで来ていた。海が静かに絶え間なく、波を打ち寄せていた。西方に見える赤い太陽は、もうすぐ水平線の下へ沈むところだった。
「城を出てからずいぶんと経っちゃったな。」
 男たちがこちらに気付かないように隠れた岩陰で、はリゾットにささやいた。リゾットは夕焼け空をちらりと見て、そうだな、とうなずく。
 それから二人はバンカーたちの様子をそっとうかがった。
 バンカーたちは何かを探しているようだった。おそらくここが目的地なのだろうが、時々激しく言い争っている。彼らの探す『宝』がうまく見つからないようだった。
「……これからどうする?」
 は再びリゾットにささやいた。
「まだもう少し様子を見るべきかな?」
 うーん、とリゾットが考えた。その間にふっと、の頭にもリゾットの頭にも、同じ言葉が蘇る。
『暗くなるまでには帰って来いよ。』
「一度、誰かを呼びに戻ろうか。」
 リゾットが提案した。
「しばらくは奴ら、ここを動きそうにもないし、それにオレたちだけであいつらを捕らえるのもちょっと難しそうだ。どっちかが城の兵士とか、とにかく大人を呼びに行って、どっちかがここで監視を続ければいい。」
「へへ、は、とリゾットの腕ならあいつらをとっつかまえるのも、不可能なことじゃないと思うけどな。でも、いいよ。それが妥当案だろう。それじゃどっちが残るか決め……」
 と、突然ドンッと低い音が響いた。振動で地面がわずかにビリビリと震える。たちは驚いて、隠れていた岩から思わずぴょこりと頭を突き出した。
「な、なんだ!?」
 見ると、先ほどまでバンカーたちのいた所が、もうもうとした煙に包まれていた。バンカーたちの姿は見えない。
「まさか、逃げられた!?」
「宝の入口、だか何だか知らないけど、そんなん見つけちゃったんじゃねーだろうな!」
 二人は慌てて岩陰から飛び出し、煙の近くまで駆け寄った。鼻をつく火薬臭と、砂塵があたりに立ち込めていた。彼らは口元を手で覆い、目を細めて煙の中に何があるかを見極めようとする。
「ったく……もう少し穏やかにできねーのかよ!」
 の全身に戦慄が走った。
「ふむ……ちょっと火薬の量を間違えましたねえ……。」
 粉塵のもやが徐々に薄くなってくる。もやの中に、人影が見えた。
「にしても、いくら宝が見つからないからって、地面ごと吹っ飛ばすことはないだろーが!」
「ふん。あなたのあまりに根拠のないウワサに少々腹が立ってましてね。本当にデマとかだったら、どう責任を取るおつもりで? ホワン。」
 人影は三つだった。それは紛れもなく、森の中で遭遇してからここに至るまで、彼らがずっとつけてきた、バンカーの男三人組の影だった。
「……あん? おい、ホワン、シャオシン。あいつら誰だ?」
 最初にと目が合ったのは、あの一番乱暴そうな小柄な男だった。彼はこちらを指差し、仲間の二人に問いかけた。ホワンとシャオシンと呼ばれたその彼らも論争を一時中断して、突如現れた少年たちのほうを見る。
「ああ? なんだ、あのガキども。」
「貴様らこそ、我がグランシェフ王国内で一体何をこそこそしている? 洗いざらい話してもらおうか。」
 リゾットが一歩進み出た。剣の柄に手をかけ、厳しい口調でそう問いかけた彼だったが、ほんのわずか、彼が額に汗をにじませているのが、側にいたには分かった。予期していなかった事態にリゾットも焦ってるんだ――そのことに気付いたは、恐れと怯えをはき捨て、自らも剣の柄に手を当てて男たちのほうに向き直った。
「あれえ、あいつ知ってるぞ。そうだ、あの銀髪のほうのガキ……グランシェフの王子だ! そうだろ、お前。王子様がこんな所で何してるんだ? 殿下はもうお城へお帰りになるお時間でございますよ?」
「オレの問いに答えろ!」
 薄笑いを浮かべてリゾットに問うホワンに、彼はそう叫び返した。
「お前たちがここで何をしていたか、それを話すんだ。」
「はーあ……。面倒くさいことになりましたねえ。」
「へへへ、でも待てよ。あいつ王子なんだろ。そんなら捕まえて、身代金でもなんでも要求しようぜ。どうせお宝もみつからねーんだ。そうでもしなきゃせっかくここまで来た割に合わねーぜ。それに、そうだ。上手くすりゃ宝のありかも聞き出せるかもしれないぞ!」
 小柄な男はニヤリと笑みを浮かべると、右手に持った大きなこん棒を振り上げてこちらに向かって突進してきた。
「リゾット、危ない!」
 はとっさに剣を抜き、リゾットの前に躍り出た。剣の刃がきらめく軌跡を描いたかと思うと、次の瞬間には剣とこん棒がガキンと火花を散らしていた。そのまま二人は、武器を交差させたまま動かない。
「へっへえ……ちょっと邪魔なんだよねえ、坊や。お兄さんたちはそっちの王子様に用事があるのさ。」
 小男がに向かって嫌味な声でささやいた。は歯を食いしばって男のこん棒を受け止めたまま、その場で耐えている。
「マオタイ、てめえもたまにはオレ様並のグッドアイデアを思いつくもんだな。よし、目的変更だ! 王子を誘拐して、身代金をいただこうぜ!!」
 ホワンが叫んだ。彼の言葉を聞いて、マオタイと呼ばれた小柄な男は振り返る。
「おい、『たまには』は余計だろ!」
 今だ! は両手にぐっと力をこめ、力の限りに男もろともこん棒をはじき飛ばした。後ろを向いて油断していたマオタイは、そのままバランスを失ってひっくり返った。
「リゾット! 城へ帰れ! 城へ帰って、兵士たちにこの事を知らせるんだ!!」
 はリゾットに向かって叫んだ。
「おっと、そうはいきませんよ。」
 シャオシンという名ののっぽが、そう言ってリゾットに何かを投げつけた。はすんでのところで、その何かを剣ではじき返し軌道を変える。それは目標を大きくそれ、海の中に落ち、直後、海水が異常な水しぶきを上げた。爆弾だ。は即断した。
「リゾット、行け! 早く!」
 は今度はリゾットに背を向けたまま言った。
「うーん、ナイスバッティングですね、坊や。でもあなた、さっきから邪魔で邪魔でしょうがないんですよ。」
 シャオシンが着ていたコートをばっとめくると、そこには大量の爆弾だの火薬だのが収められていた。彼はその中からすばやく数個を取り出すと、めがけて投げつける。は慌てて飛び下がり、それらを避けた。地面に打ちつけられた爆弾は各々小爆発を起こし、あちこちで砂を巻き上げた。
「チンタラやってんじゃねーよ、シャオシン!」
 爆弾を避けきった直後のに、起き上がったマオタイがこん棒を持って襲いかかってきた。に避けるすべはなく、彼はもろにマオタイの一撃をくらってしまった。
「うわっ!」
 砂浜に打ちつけられる。起き上がるスキも与えずに、マオタイはさらなる追撃を加えようとこん棒を振り上げた。
「ハハハハッ! しばらくおねんねしてな、小僧!!」
 は剣でこん棒を受け止めようとした。が、剣がない! さっき攻撃されたときに落としてしまったようだった。太いこん棒が、の顔面めがけて振り下ろされる!
「がはあっ!」
 次の瞬間うめき声を上げたのは、マオタイのほうだった。そしては見る。剣でマオタイを斬り払ったばかりのリゾットの姿を。
「リゾット……!」
「ちいっ……生意気なガキは大嫌いですよ。」
 シャオシンが再び複数の爆弾を投げつけた。リゾットはさっとそれをよけ、も起き上がりざまに爆弾から逃れる。そして転がっていた自分の剣を拾うと、敵に切っ先を向けて威嚇した。
「……ふん。まったくシャオシンもマオタイも、ちっとも役に立たねえな。ガキ二人ぐらいさっさと片付けろよ。」
 対峙した少年二人と仲間とを見て、それまでずっと戦闘の様子を傍観していた太った男が、呆れたようにつぶやいた。とたん、シャオシンがキッと彼のほうをにらみつける。
「なんですって!?」
「オレ様が出るまでもねえと思っていたが、なかなかやるな、小僧ども。しょうがねえからちょっと遊んでやるか。この世界最強のバンカー、ホワン様がよ!」
 言って、自称世界最強の男がついに戦闘体制に入った。右手には、太い棒を持っている。棒の先には鎖が付属され、さらにその鎖の先端には、破壊力のありそうな鉄球がついていた。あれが彼の武器だろう。一撃でもあの鉄球をくらえば致命的だ。鎖の届く範囲に注意しながら攻撃しないと――。は柄を握る手にぐっと力を入れた。
「来るぞ、!」
 リゾットが叫んだのと、奇声を発してホワンが駆け出したのはほぼ同時だった。ホワンがリゾットに向かって鉄球を投げつける。リゾットがそれを避けたのもつかの間、一気に間合いを詰めたホワンは素手でリゾットに殴りかかった。
「させるか!」
 が横から斬りかかる。ホワンはとっさに、その体型からは想像しにくいほどの素早い動きで飛び下がり、の剣は空を斬った。と、逃げたホワンを目で追いかけた瞬間、の視界に黒い物体が飛び込んでくる。
「吹っ飛べ、ガキ!」
!!」
 ドーンと音が響き、砂煙がたちこめた。の目の前は、何も見えなくなった。


To be continued...

BACK   NEXT




男性主人公夢小説メニューのページに戻ります