訳ありな短文で10題





 レモネードはパンプキンの詮索を鬱陶しく思う。なぜバンカーになったかと聞いてくる。
「っせーな。テメェに関係ねーだろ。」
 そう言って蹴り飛ばしたのは、たぶん、それを思い出したくないと泣いている小さな自分の姿だった。
01:知られたくない過去


 メンチの胴に走る割れ目は、コロッケにとって忘れがたき記憶の引き金。メンチにとって屈辱の惜敗と不屈の証。
 二人がそれに触れることは、もうない。
 ただコロッケは時々そっとメンチの体を撫で、メンチは黙って受け入れる。
02:体に刻まれた傷痕


 人かと問われれば多分違う。嫌悪や蔑みにも慣れた頃、分け隔てなく接してくれる者が現れた時には少し驚いたが、裏ではどう思われているか。まあどちらにせよ彼の言うことは同じ。
「俺様は世界で一番伸びる男、ダイフクー様だ!」
03:得体の知れない人


 仲間が記憶を失いましたと、リゾットは打ち明けた。もしもこのまま記憶が戻らなければ、オレは、フォンドヴォーを。
「大丈夫……大丈夫よ、きっと。」
 すべてを言わせまいと、プリンプリンの母親はそっと彼の肩に手を置いた。
04:どうしても戻らない記憶


「また隠してやったろ。」
「……ごめん。」
「もうちょっと信頼してくれてもいいんだぜ。」
 ウスターは困り顔で、それでも微笑んで、ほれとコロッケに一杯の椀を差し出す。
「腹減ってんなら言え。もうつまみ食いすんなよ。」
05:隠し事ばかりしないで


 禁カブトを捕える場面を目玉型の監視カメラが終始観測していることに、サーディンは当然気が付いていた。ねめつける視線にこもるのは執念と怨念。
 あたしと同じ目ね、とサーディンは禁カブトを握りしめ、冷ややかに背を向けた。
06:逃がさない、絶対に


 立派な王様とは、との問いに、信じる道を行くことだと父は答えた。
「もう答えは出ているのだろう。コロッケくんを追うと。」
 父にはお見通しだった。
「私はお前を信じているよ。」
 万感を込めて、リゾットはうなずいた。
07: 繰り返し再生される最期の言葉


「泣いて足掻けば、取り戻せるんだ。」
 禁貨を使えばな。金も、命さえもとそのバンカーは言う。だから取り戻しに行くといい。
「本当に大事なものを、なくす前によ。」
 彼の瞳に写る景色は、サングラスに隠れて見えなかった。
08:泣いても足掻いても取り戻せないもの


 部下にはなれないと思うこともあった。体格の差は埋めようもなく、彼らの全力はあまりに無力。
「でもキャベツさんは、信じてくれた。」
 四人は顔を見合わせて頷く。どんな結末が待っていようとも。彼らの気持ちは一つだった。
09:それでも貴方と生きていたい


「ユバ……。」
 ユバを呼ぶ声は遠く、遠くから響く。
 もう聞けないと思っていた声だった。彼自身が概念から消し去ろうとした声だった。
 それが、また聴こえるなんて。
 温かな嘲笑を浮かべ、ユバは声のする方へ向かった。
10:僕にだって人を愛する権利ぐらいある筈だから




この作品のお題は、エソラゴト様からお借りしました。

Fin.





「本棚」ページまで戻ります

作品解説(あとがき)