何を今更、










 コロッケのために禁貨を集めようと、言い出したのは誰だったか。別に誰でも良かったのだが、とにかくそれはキャベツではなかった。そんなことを思い出していた頃に、キャベツはある町で偶然ウスターに出会った。
「よお、キャベツ。久しぶりだな。」
 ウスターもキャベツと同じくコロッケのために禁貨を探して各地を旅するバンカーの一人だった。ひとしきり再会の喜びを分かち合う二人。ウスターが飲み物をおごってくれた。カップ片手に、二人は町の中をぶらぶら歩きながら、最後に会った時からの話をとりとめもなく続けていた。
「それで、禁貨は集まったのかよ。」
 ウスターが尋ねた。キャベツは、いやあと苦笑する。
「まだそんなには……。なかなかバンカーバトルも勝てなくって。」
「なんだー、キャベツも似たようなもんか。まあでも、焦るこたないさ。一人一人が集められる禁貨の数は大したことなくても、皆で集めてるんだ。きっとコロッケの願いの一つや二つ、すぐに叶えちまえるよ!」
 あっでも二つ叶うんだったら一つは俺に分けてくれたらいいんだけどなー、と冗談めかして笑うウスターを見て、コロッケのために禁貨を集めようと言い出したのは彼だったか、とキャベツは再び考える。
「とにかく、一日でも早くコロッケを親父さんに会わせてやりたいもんだぜ。」
 本当に心の底から、ウスターはそう言うのだった。
 コロッケのために禁貨を集めようと言い出したのがウスターだったかどうかキャベツは思い出せなかった。とにかくそれはキャベツではなかった。そんなことはどうでも良かった。キャベツだってもちろんコロッケのために禁貨を集めたいと思ったのだし、実際そう行動している。
「そうですね。早くコロッケさんに恩返しをしたいでっす!」
 でもきっとウスターは、誰がコロッケのために禁貨を集めようと言い出したとか、自分だったかそうでなかったとか、気にすらしていないだろう。だって本当にどうでも良いことなのだから。気にするのは、どうでも良くないからなのだ。キャベツはそんな自分が嫌だった。けれどコロッケとウスターの絆に自分が勝てるはずもなかった。それは初めて彼らに会った時から、分かりきっていたことだった。

 恩返し、とキャベツに言われてウスターはハッとした。恩返し。言われてみれば、そうかもしれない。コロッケはいつだってウスターのことを見捨てなかったし、戦闘があまり得意ではないウスターを補うようにして戦いの矢面に立ったこともある。コロッケに受けた恩はたくさんあった。
「恩返し……。」
 けれどコロッケのために禁貨を集めることを、そんな風に思ったことはなかった。ウスターはただコロッケに同情していた。幼い日に父親を亡くし、誰を頼りにすることもできずたった一人でバンカーとして戦い続け、その結果得た強さと優しさのせいで未だに自分の願いをかなえることができず――ったく、バンキングを二回も呼び出したことがあるのに、まだ願いが叶ってないバンカーなんているかよ? 放っておいたらコロッケは、きっとまた自分ではない誰かのために禁貨を使うのだろう。だからコロッケが他人に渡す優しさの分、皆で禁貨を集めてコロッケの願いを叶えてやろうと、そう決めたのだった。
 よくよく考えればそこにはもちろんコロッケへの感謝があって然るべきなのに、ウスターはキャベツに言われてやっと、真っ直ぐなありがとうの気持ちを洗い出せた。
「ああ、そうだな。恩返しだ。お前、すげーな、キャベツ! ありがとよ。」




 不意にウスターに礼を言われてキャベツは面食らった。
「えっ、何がでっすか?」
「いやいや何でもねーんだって。とにかくコロッケのための禁貨集め、頑張ろうぜキャベツ!」
 それは全く曇りのない言葉だった。キャベツはうつうつと動く自分の心が馬鹿らしく思えた。
 コロッケとウスターの絆に勝てない、だなんて。そもそもそれは勝ち負けのあるものではない。確かに、ウスターに追いつけないのは事実なのだろうが、それならばそれなりにそこを目指すことはできるだろうと、あるいは別の道を行くこともできるだろうと、キャベツは思った。
「はい! もちろんでっす!」

 二人のバンカー達は、改めて友を想い、その夢の欠片を集めることを、心に誓った。



Fin.





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作品解説(あとがき)