それは、バンカーの手からこぼれた禁貨が地面に落ちるまでの時間のようで







ようやく最後の光に辿り着いた者が背負った、永い時間のようでもあった




















1〜   10〜   20〜   30〜   40〜   50〜
60〜   70〜   80〜   90〜   100〜   索引




 知らない事が山ほどあった。傷だらけになりながら、一つずつそれを知った。
 城下町、田園、森林。彼は今、眼下に広がる国土と共に、歩むべき王の道を見据える。怖くはない。もう独りではないから。
 全てをここから始めよう。

001.全てをここから始めよう
描写対象:リゾット





 禁貨はどこにでもあると、言ったのは誰だったか。どんな願いだって本人の努力と意思で叶うと、それはある意味で禁貨だと。それが慰めだともっと早くに知っていれば、あるいははじめからこの世界に禁貨などなければ、良かったのに。

002.願い
描写対象:世界観





「たった三枚ですか。」
「ただの余興ですからね。あ、それと壁に入ったのを一枚。」
「お手間なことで。案ぜずとももはや禁貨など無価値だというのに。」
「だからこそです。だからこそ今……禁貨ゴーグルが、必要なのですよ。」

003.三枚の禁貨
描写対象:XO





 プリンプリンはあっさりとしていた。ウスターは案じてくれていて、フォンドヴォーはがっちり励ましてくれた。キャベツは瞳をうるませ、コロッケはなかなか手を放さなかった。
 そして未来の王は彼らバンカー達の背中を見送った。

004.誓いの握手
描写対象:リゾット





 キャベツは黙って堪えていました。それを口に出した所で何も変わらないことを、彼は知っていました。彼らはただ、行動と結果で示すしかないのです。
 瞳からこぼれた何百粒目かの涙を、 彼の小さな友人たちがそっとなでました。

005.馬鹿にするな!!
描写対象:キャベツ





 ウスターを扉の奥へ進ませる事が自分の役割だと思っていた。
「けどあの行動は、コロッケ怒ると思うぜ。」
 後にウスターはそう言った。T-ボーンは本当に、その意味が分からなかったのだ。ウスターは困ったように笑っていた。

006.後押し
描写対象:T-ボーン





 アンチョビに仲間はいない。
「ああ、ずっとお前がチームなら良かったのに。」
 だからそれが情でも何でもなく、バンカーの利己を意味するとすぐに分かった。
 だからおかげでアンチョビは、それをためらいなく、切り裂いた。

007.心強い仲間
描写対象:アンチョビ





 数日前に騒ぎを起こし捕まっていたバンカーが逃走した。足跡も臭いも消える雨の日だった。
 いつだってそうだった。
 排バンカーを訴える市民活動が新聞に載っていた。
 結局その後、バンカー再逮捕の情報はないままだった。

008.雨の日のフライパンロック
描写対象:世界観





 それは遠い世界を描いた、優しい雨の日の子守歌だった。
「禁貨さえなければこんな世界はなかったのにって、時々思うんですよ。」
 師の呟きに、
「そうしたら僕は先生にも会えませんでした。」
 ウィンナーはそう答えた。

009.田舎の子守歌
描写対象:ウィンナー





「お前はばんかーになるんだ。」
 物心つく頃にはバンカーに憧れていた。
「お前はみんなと違うからバンカーだ。」
 けれど絶対にその願いだけは持たない。俺はもっと俺らしく、白くて、すべすべで、世界一伸びる男になるんだ!

010.子供の頃から
描写対象:ダイフクー





「あれ、ぬいぐるみは?」
 物心つく前から持っていたと、いつか言っていた。それがいつの間にかなくなっていた。
「捨てたわよ。」
 モッツァレラは事も無げに言う。
「邪魔だもん。」
 そうでしゅか、とピロシキは呟いた。

011.抱えているモノ
描写対象:モッツァレラ





 不可能だ。
 不可能じゃない。禁貨さえあれば。
 無理だ。
 じゃあ君が僕の願いを叶えられるか。邪魔をしないでくれ。
 どうしたって手に入らないものもある……。
 だが友の忠告虚しく、彼は旅立った。空をつかむため。

012.手を伸ばしても、届かない
描写対象:世界観





「108マシンガンを教えて下さい!」
 食い下がる教え子を今日も退けた。まだ時期尚早だと。
 不満のない日常だった。誰かに必要とされて、居場所があって。
 時期尚早だったのは私の方だなと、パエリアは空虚な息を吐いた。

013.認めて欲しかった
描写対象:パエリア





 この星には人間扱いされる奴と、そうじゃねえ奴がいるんだよと、レモネードは吐き捨てた。
「それはお気の毒。」
 スズキは退屈そうに言い、
「でもその話、ユバにはしない方がいいにゃ。」
 嘲るように憐れむように笑った。

014.身分の差
描写対象:スズキ





 彼には傷一つ付かない。何度殴られても何度殴られても、彼には驚異的な再生能力がある。何度戦っても何度戦っても、彼は必ず勝つ。何度勝っても何度勝っても、彼にはもうその意味が分からず、気の毒な事に心の穴を増やすばかりだ。

015.傷だらけのファイター
描写対象:アンチョビ





 息子がいなくなるのはもう少し先だと思っていた。
「ママ、俺の歯ブラシある?」
 背中を押してやったけど、本当は心に穴が空いていた。
「あった。へへ、何も変わってねえ。」
 それが息子にばれるのは少し恥ずかしかった。

016.いつでもここに…
描写対象:プリンプリンの母





 ウズラは馬鹿にするし、スズキは興味がない。ストロガノフは理解できない。
「すごいねブーケガルニ。まるで生きているようだ。」
 だからユバが背中を押してくれた時、嬉しくて嬉しくて、もっと誉められたいと思ってしまった。

017.お人形遊び
描写対象:ブーケガルニ





 紙切れが一枚飛んできた。バンカーサバイバル告知のチラシだった。
「へぇー……なんか面白そうだなあ。」
 そんな軽い興味で始まった気持ちが、人生を左右する出会いに結び付くなど、その時の彼には予想できるはずもなかった。

018.風の悪戯
描写対象:世界観(BS参加者の誰か)





 日に日に月が細くなっていく。今日もチェリーは空を見上げて寂しそうに鳴く。
「心配すんな……また満月に戻るって。」
 レモネードがむにゃりと諭す。
 まもなく訪れる真っ暗な夜を予想して、チェリーは今回も身構えている。

019.夜明けの三日月
描写対象:チェリー





 露店商の前でT-ボーンは足を止めた。視線の先には満月のように真ん丸の水晶玉。占術師はこれで未来を見るのだと商人はいわくありげに言う。不思議そうにのぞきこんだT-ボーンが見たそれは、とても透き通っていて、綺麗だった。

020.水晶玉に映る未来
描写対象:T-ボーン





 ぷりぷりの魚肉は透き通り、添えられたソースの隠し味はマタタビ。痺れるような美味を、ウスターは忘れられない。バンカーとして旅の身に贅沢は禁物だと思いつつも、
「今夜くらいは旨い飯……。」
 うっかり食堂の扉を開けた。

021.ごちそうを下さい
描写対象:ウスター





 庭に咲き誇る美しい花を眺め、異国の贅沢茶を口にする……なんて日常にちょっと憧れる時もある。顔立ちだけなら仲間に入れそうだが、貴族は貴族で面倒そうだし、禁貨で叶える程の願いでもないなと、安価な茶を楽しみながら考えた。

022.薔薇の貴公子
描写対象:プリンプリン





 助けはいらないと言ったのに、コロッケは助けに来た。こちらの主張など全く聞かず、ただ自分の信じる道を押し付け自ら面倒に飛び込んだ。その優しさに甘えるまいと凍らせた心はついに溶け、やがて信頼という硬い結晶を生み出した。

023.自分勝手
描写対象:リゾット





 バーグの木槌に赤い液体がべったりと付いていて、フォンドヴォーは凍りついた。だがよく見るとペンキだった。
「もし本当に血だったらどうする。」
 問われてとっさに返答出来なかった。冗談だとバーグはいたずらっぽく笑った。

024.血塗れの武器
描写対象:バーグ





 壁には尖った耳を持つ獣の大きな影。手影絵で父子が遊んでいます。子供が喜ぶので父親は次々に影の形を変えました。父さんはキカイでも影でも何でも作れるのと子供が問うと、そうなら禁貨なんていらないなと、優しく返答しました。

025.影を支配する者
描写対象:フォアグラー





「これくまさんチームのなんだけど。」
 ポーが壊れたロボットを運んできた。外傷はなく、同じ計算を何度も繰り返すプログラム異常だそうだ。
「ふむ、哲学でもしとったんかの。」
「まさか。機械よ。」
 ポーは呆れて笑った。

026.じゃんけん
描写対象:じゃんけんロボット





 テトはいつも禁貨を身に付けている。危なくないのかとプリンプリンが問うと、
「危ないのは分かるけど、だからってこの禁貨に込められた思いまで否定したくないの。」
 繰り返し祖父から聞かされた物語を、テトは教えてくれた。

027.宝物
描写対象:テト





「お前があと五秒待てたら準決勝だったのにって、今でも思うぜ。」
「へへ、ごめんウスター。」
「でもそしたら俺、アンチョビに殺されてたな。」
「うん、多分。危ないとこだったね!」
「ったく、どの口がそれを言うんだよ?」

028.わずか5秒が待ちきれない
描写対象:コロッケ





 T-ボーンはつやつやと光るかぶと虫を嬉しそうに眺めている。宝石とか夜空の星とか、光るものの好きな子だった。
「多分いずれ、禁貨にも興味を持つだろうな。」
「その時は、」
 夫の言葉に妻は微笑む。
「その時だっぺ。」

029.ぴかぴか
描写対象:T-ボーンの母





「グランシェフのお姫様ってどんな人?」
 城には姫が必ずいると思っていたコロッケにウスターは、リゾットに姉妹がいればな、と説明した。
「いたら美人だろうな。ま、俺様ほどじゃないけど!」
 と茶々を入れるプリンプリン。

030.グランシェフ王国のお姫様
描写対象:コロッケ





 ちりんと鈴が鳴りました。足元にはお姫様のように愛らしい猫が一匹。ピロシキは猫を抱き上げると、その音源が結ばれた革の輪を猫の首から外しました。
「もう、自由でしゅよ。」
 その後、猫が家に帰ることはありませんでした。

031.儚い鈴の音
描写対象:ピロシキ





 初めて息子を抱き上げた時、彼はどれだけ禁貨を積んでもこの瞬間には代えられないと悟った。
「誕生日おめでとう、コロッケ。」
 そして生まれたての父親は、 どれだけ禁貨を積むことになっても、この宝たちを守ろうと決めた。

032.誕生
描写対象:バーグ





 自分の力に満足できないバジルは、飛び去りたい程に苛立っていた。
「禁貨さえ積めば最強になれる。それまではここが君の居場所なのだよ。」
 パパイヤの物言いにチクリと違和感を覚えたが、それが何故か彼には分からなかった。

033.ここに、いてもいい?
描写対象:バジル





 棺桶型の貯金箱なら便利そうだなと思った。物入れになりそうだし、非常食でも入れておこうか。武器にすれば相手の不意を付けるだろう。野外の寝床にも満足できそうだ。
 なんて考えて、フォンドヴォーはちょっぴりわくわくした。

034.大きな貯金箱(バンク)
描写対象:フォンドヴォー





 虫かごゴールに到達した面々の表情は棺桶に入っているかのようで、グルテンは気に食わなかった。禁貨が関わるとなぜ皆こうも重くなってしまうのだ。今こそ笑顔でいなければ!
 グルテンはクラッカーを手に取って、にんまりした。

035.囚われた微笑み
描写対象:グルテン





 どうしようもない子分がいる。自分がいないとすぐに音を上げる。でもまあ今のところ彼の力を最大限に使えるのは自分だけのようだし、気に食わなくはない。
「行くぞ、スージー・ニック!」
 号令して、ピザの斜塔を登り始めた。

036.力を合わせて
描写対象:アブラミー





 バンカーバトルに敗北した時、ラオチュウはドロップとはぐれ、それきりだった。
 彼女が自分ではなく禁貨の側にいるのは何となく感じていた。どうしようもない。それでも、冷たい声でいい、せめてさよならの言葉を聞きたかった。

037.最後に声も聞けなかった
描写対象:ラオチュウ





 父を亡くした後、初めてコロッケが大声で泣きじゃくった夜、小さな貯金箱は胸に誓った。
 必ず君を守ります、と。そして、必ずこの子を守ります、と。
 言葉にはできないけれども、せめてとメンチはコロッケの頬に寄り添った。

038.決意
描写対象:メンチ





 どちらかが命を落とさねばならぬ戦いだった。
 ならば平気でお前を倒すと、アンチョビは冷たい言葉を放った。
 ならばそんな顔して泣きじゃくるわけがないと、T-ボーンには分かっていたから、何も恐れることなく目を閉じた。

039.死闘
描写対象:T-ボーン





 どうしようもない親分がいる。自分がいないとすぐに調子に乗る。でもまあ今のところ彼の力を最大限に放てるのは自分だけのようだし、気に入らなくはない。
「待って下さいアブラミー親分!」
 慌てて、ピザの斜塔を登り始めた。

040.アブラミー軍団奇襲
描写対象:スージー・ニック





 呆れたように舌打ちして。
 保護者みたいな顔して微笑んで。
 ぐうぐう眠る仲間を背負って。
 いつも、みんなの後ろを支えてくれている男がいたんだ。
 その口癖も調子のいい笑い声も、俺が、もう聞けなくしちまったんだ。

041.ったく
描写対象:プリンプリン





 この星が他の惑星との衝突軌道にあることは、天文学者の友人から聞いて知っていた。
「このままだと皆死ぬ。バンカーになることの、何が恐いものか。」
 そう言って死の隣に身を置いた若者の声は、もう聞けなくなってしまった。

042.隣り合わせの死
描写対象:世界観





 天蓋付きのベッドで少女は眠る。安らかに眠るその顔は、幼すぎて、尊すぎて、この世の汚れも何も知らない。
 窓からのぞくその景色は、遠い惑星のように届かぬ場所だとレモネードは教わった。禁貨をもってしか覆せない世界だと。

043.眠りの姫君
描写対象:レモネード





 そのバンカーは、禁貨で三度願いを叶えたと言い伝えられている。一度目は友のため。二度目は戦った敵のため。そして三度目は、実は明確ではない。けれどその願いが何だったのか、その景色を少し想像できるような気が、ハムはした。

044.伝説のバンカーが最後に見た夢
描写対象:ハム





 あの時食べたカレー……明確に伝えるならば、ハヤシライスをポーは思い出す。
「あれほどの味、相当研究したんじゃないの。」
 問うとフォンドヴォーは、まあ、と少し照れ笑いした。
「時間だけは、たくさんあったもんでね。」

045.究極のおいしさ
描写対象:フォンドヴォー





 ウスターはポーのキスを思い出す。マカデミア島で初めて会った時のことだ。ポーはどんなつもりで、と考えるが、答えは出ている。動物や可愛いものの好きな娘だ。今さら生まれた形の違いについて思うなど、とウスターは鼻で笑った。

046.接吻到来
描写対象:ウスター





 とぼけたくまの描かれた組分け札を見つめ、リゾットは嫌な予感しかしなかった。相手がどんなつもりか分からないのだから共闘は避けたい。
 だが一番乗りでゴールした時、確かに彼らと達成感を共有していたと、今となっては思う。

047.くまさんチームの栄光
描写対象:リゾット





 パーティにはもう飽き飽きだ。提言しても、ユバはそれを中止しなかった。
 ブラック禁貨の行方を探し、達成できぬ苛立ちを「パーティ」で掃かし、それでも変わらぬ運命を思い知り。
 ウズラの心は、とっくに諦めも超えていた。

048.いい加減にしてくれ
描写対象:ウズラ





 一度だけ、カラスミが自身の境遇を呟いたことがあった。絶望の運命を変えたカラスミのように自分もいつかと夢を見た、その願いの入口に立った今、タンタンメンは、何故こんなにも虚しいかと空を仰いだ。カラスミ様がいない、絶望。

049.切り開け、我が道
描写対象:タンタンメン





「彼らの特異体質は呪術の一種だと僕は推察します。」
 突然やって来た学者は意味不明なことを喋り続けた。
「帰りな。あたしゃ興味ない。」
「待って、あなたはもしや……」
 オコゲは彼の鼻の先でばたんと入口の扉を閉めた。

050.呪い
描写対象:オコゲ





 私の体が禁貨で満ちると、バン王が現れて、あの人の、私の持ち主の願いが叶います。
 でも、もしも私が自分で自分の願いを叶えられるなら、一つだけ望みがあるのです。どうか、あの人に届く言葉を喋られるようになりますように。

051.小さな野望
描写対象:世界観(生きてる貯金箱)





 彼は今年で五十二歳になる。バンカーとしてはとっくに限界を越えた体だった。からっぽなんじゃないかと罵られた頭をつば広の帽子で隠し、黒いマントを羽織って、彼は行く。しがない中年である前に、バンカーであり、男なのだから。

052.帽子の中には…
描写対象:コノワタ





 ずっと思っていた。バンカーであることの何が悪なのかと。それを肯定する正式な大会でもあればいいのにと。
 いよいよそれが本当に現れた。千人、あるいは万人の中から頂点を決める戦いで、私が、バンカーの正義を証明するのだ!

053.夢のバンカーサバイバル
描写対象:世界観





 せめて、交わした拳の傷あとでもあれば、少しは孤独から救われると思った。
 裏切ったバーグのことを許せない。それなのに、彼の口ぐせが頭から離れなかった。
 絶望の中、マスタードは心の奥底でずっと「友達」を待っていた。

054.助け合うのが友達
描写対象:マスタード





 彼がグランシェフの王子だと、勘づいてはいた。
 第二関門突破の喜びをコロッケと共に分かち合うリゾットを見て、やっと孤独の氷が溶けて良かったと、フォンドヴォーは思った。
 二回戦が終わったら、ゆっくり話をしてみよう。

055.初めて笑った
描写対象:フォンドヴォー





 氷の館には花畑と空の部屋があった。今は夜のその部屋にストロガノフがいる。
 彼は涙を流していた。
 そんな感情が残っていたとはね、とユバは少し意外そうな顔をすると、ゆっくりストロガノフの隣に立ち、偽物の空を眺めた。

056.ふるさとの夜空
描写対象:ストロガノフ





 手にした一輪の花を友にあげようか。だがラクガンはその名も知らない。喜んでもらえるかと悩んでいたら
「これあげる!」
 キウイが野草の花束を差し出した。
 ラクガンはその名を知らなかった。
 そしてとても嬉しかった。

057.下手くそなプレゼント
描写対象:ラクガン





報告:oropes属植物の変異群について
表題植物のトースターバレーにおける群生種について、花芽形成を添付資料の条件下で確認しました。また土壌から禁貨の成分を検出したので、その影響可能性を禁貨理学方面から要検証です。

058.トースターバレーに咲く花
描写対象:世界観





 町は祭りの日。太鼓の音が鳴り響き、ひとつずつ違う模様の布きれが連なり飾られている。万国旗と呼ぶと、添付資料に書いてあった。つまりこの旗の数だけ王がいると。全く非効率なことだ。やはり下等な生物だと、ユバはあざ笑った。

059.掲げられた国旗
描写対象:ユバ





 バーグの息子に会った時、鳴り響いた感情を言葉で表すのは難しい。彼の代わりに保護すべきかとも思ったが、そうせずに正解だったような気もする。
 愛弟子の最期をやっと知ることが出来たその日、老バンカーは密かに涙を流した。

060.死に目
描写対象:タロ





「ここで初めてタロじいちゃんに会ったんだ!」
「うん。」
「じいちゃん言ってくれたら良かったのに。父さんの話聞きたかったよ。」
「引き止めると思ったんだろ。」
「そっかあ。あっねえねえ父さん、それとあそこでね……!」

061.懐かしい広場
描写対象:コロッケ





 グランシェフ城下町の片隅でバンカーと町民の喧嘩が起きていた。豊かで平和に見えるこの国も、弱肉強食の理の中にある。ならば強くあれば良い。
 そう思うカラスミの凍てついた眼には、騒動も往来も何も映っていなかった。何も。

062.城下町視察
描写対象:カラスミ





 兄さん、とサーディンは呟いてみる。それから声音を変えてもう一度、兄さん。
 幼い少年のように言ったつもりだったが、凍てついた女声のようにも思う。どのみちどんな声でその言葉を口にしたいのか、もう分からなくなっていた。

063.声色術
描写対象:サーディン





 茹でて潰して味付けして焼いた芋。初めて見る食べ物だった。
 供してくれた女主人に美味いよと促されるまま、プリンプリンがそうっと口にしたそれは、知らない土地の味。けれどやっぱり知っている食材のほっこりとした味だった。

064.芋料理
描写対象:プリンプリン





 シシカバブーの四肢にみなぎる力と鋼のように強固な肉体は、最強にして完璧だ。なぜならば禁貨で叶えた願いが不完全であるはずがないからだ。
 それを証明する為に暴れれば暴れるほど、心の穴は知らないうちにますます広がった。

065.パーフェクト
描写対象:シシカバブー





 壁際に追い詰められ、逃げ場はない。必死になって暴れ走った努力むなしく、いよいよ追っ手に捕らえられたその時、パセリは観念して目をつぶり悲痛に鳴いた。
「あれ、パセリ。メンチと鬼ごっこでっすか。そろそろ行きまっすよ!」

066.もう逃げられない!
描写対象:パセリ





 バンカーを滅ぼしたところで私の両親は帰ってきません。むしろ禁貨でなら死人を蘇らせることが出来る……私の声に振り向かず進んでいったフランクは、そんな自己矛盾に追い詰められていたのかもしれないと、今さら気付いたんです。

067.…待って
描写対象:ライム





 バンカーサバイバル参加者の目は頂点を見据え、一様に血走っている。そこを目指さない者がいるなどとは夢にも思っていない。
 願いを叶えることこそが、本当の優勝よ。
 バトル跡地の禁貨を拾い、ドロップはにやりと微笑んだ。

068.優勝目指して
描写対象:ドロップ





 師匠が遺したんだなと、懐かしげに木槌を撫でるフォンドヴォーに、コロッケは首を振る。
「借りてるだけだよ。返す時はオレのハンマー技見てもらうんだ!」
 彼はすまんと開きかけた口を閉じ、きっと誉めてくれるさと微笑んだ。

069.形見の品
描写対象:フォンドヴォー





 必ず殺す技なんて物騒なものが欲しいわけじゃない。ただバンカーになる以上はと、ウスターは考える。強くて使いやすくて、しかも余裕があって。
 だんだん飽きて、そうだ爪の手入れしようなどと気がそれた時、あっと口を開いた。

070.必殺技が生まれた日
描写対象:ウスター





 ある岬の家を訪れた時、生じた感覚にニガリは戸惑った。ここによく似た場所を、知っている。
(私に過去はない。私はただ目の前のバンカーを必ず殺すだけ。)
 そう思うニガリの鋼の刃は、 目に見えぬほど僅かにこぼれていた。

071.思い出の場所
描写対象:ニガリ





 リゾットが王になったと聞いた。だからもう、熱い拳を交わすことも世界中を冒険することも出来なくなったんだと思っていた。
 ずいぶん時間が経ってしまったが、彼はこんな場所で戦っていたのかと、今のコロッケには理解できる。

072.バトルフィールド
描写対象:コロッケ





 月光を背にして復帰した姿はあまりにも衝撃的で、感謝の言葉を伝えるのがずいぶん遅くなってしまったと、リゾットは詫びた。
「なあに。」
 ウスターはちょっと照れて頭をかく。
「あれは礼を言うようなことじゃねーだろ。」

073.間一髪
描写対象:ウスター





 就寝前には腕を外し、指の先も分解して、義手であり武器でもあるその銃を丁寧に磨く。明日の戦いに備えるため。
 禁貨を集め願いが叶えば、こんな時間も必要なくなるかと、ドリアンは親指を月光にかざしながら少し感傷に浸った。

074.おやすみなさい
描写対象:ドリアン





「売ってないなら、作ればいいの。」
 一針一針、手を抜かず丁寧に。既製品を上手く組み合わせて。そうして出来た色んな衣装を、ポーは身にまとう。そうすれば何にでもなれる気がした。動物、異種人、それから、バンカーにだって。

075.コスプレマニア
描写対象:ポー





 カラスミはグランシェフ城の王室で潮の香を嗅ぐ。彼はその匂いを知っていた。毎日居たその場所で、海の空気に組み合わさるのは、洗濯物の残り香と鍋から立ち上る熱い湯気とーー。
 突然、カラスミは大きな音を立てて窓を閉じた。

076.潮風。海が近い
描写対象:カラスミ





 世界の果てを見に行ってもまた新しい世界があるから、世界は次々作られると思っていたとT-ボーンは言い、
「けんどおめぇはオラが何度も地平線を越える前にもう居たんだから、それも違うなって。」
 不思議そうに首を傾げた。

077.地平線の果て
描写対象:T-ボーン





 戴冠の儀は粛々と執り行われた。仲間とか信頼とか世界の平和とかいう言葉で飾り、皆が感動の喝采を送ったそれは胸焼けのする様などろりとした演説で、あの王座がたった一枚の禁貨で溶け砕けるだろうことが、彼にはすぐ予感できた。

078.王座は甘い砂糖菓子
描写対象:世界観





 父親が死ななければ、その子供が扉を開けることはなかった。星屑降る砂丘の扉も、空を越える思いの扉も、すべては運命のままに。
「ううん。オレが、冒険したいんだよ!」
 飾らないその微笑みすら、神の恣意のような気がした。

079.冒険の扉
描写対象:コロッケ





 私達は子供の未来を応援します、とラジオが陳腐な広告を歌う。
 子供だけずるいなぁと酒場の店主は冗談めかす。
「バンカーを一々応援してたら来る未来もこねえよ。」
 違いねえ、と彼は口元に刺青した印をにぃと歪ませた。

080.夢
描写対象:世界観





 クレーンゲームは見慣れない機械だったが、T-ボーンはすぐに夢中になった。操作者への応援もわいわいと楽しい。取れた物を得意気に見せ合う言い回しもきっとこの遊びの一部だろうと思い、ぬいぐるみを掲げて真似して言ってみた。

081.オレの方がスゲーよ
描写対象:T-ボーン





 今宵の空は薄い雲に覆われていた。もしあの夜もこんな空だったなら、一部が違えば、変わっていただろうか。
「例えば、ピロシキが勝っていれば。」
 ピロちゃん傷つくわよと言われ、タンタンメンは不機嫌そうに視線を落とした。

082.雲に隠れた月を見る
描写対象:タンタンメン





「人が死ぬと空へ行くと地上人は言うそうです。」
 滑稽なことですねと、サイダーは空を見上げる。タカノツメは上手く言葉を組み立てることができず、いつも通り黙って隣に立っていた。
「それが本当なら、いつでも会えるのに。」

083.空の上の君
描写対象:サイダー





 一本目の剣は、めまいのするような輝きを放っていた。
 二本目では光にも慣れて、それを上手く扱えることが嬉しかった。
 何本目か忘れた頃にはもう、躊躇も、感動も、何もなくなっていた。
 幼い子供の叫び声が響いていた。

084.光る剣が生える
描写対象:アンチョビ





 カラスミの暴力的な信念と輝くカリスマ性にフカヒレは心酔したから、他の三人もそうなのだと思っていた。
 遠のく意識の中で、タンタンメンたちの背中が見える。
 結局最後まで、彼らがフカヒレを仲間だと呼ぶことはなかった。

085.カラスミ軍団四獣士
描写対象:フカヒレ





 突き刺さる光は暴力的な雨粒のようだった。
 雨は嫌だわ、とブーケガルニはゆっくり思う。でも雨の中、皆と一緒の食事は悪くなかったわね。ユバも、微笑んでいた。
 ユバが今どんな表情なのかはもう、光の彼方に見えなかった。

086.突き刺さる雨に濡れ
描写対象:ブーケガルニ





 先の戦いで傷付いたタンタンメンの爪の治りはずいぶんゆっくりだった。
「ダッサー。そんなので戦う気ぃ?」
 モッツァレラは会う度いつも嘲笑する。そう、毎日毎日、モッツァレラは彼の爪が治らないのを見つめているのだった。

087.毀れた爪
描写対象:モッツァレラ





 傷付いた果肉からしたたる真っ赤な液体がまだ新鮮なうちに、ぐびりと飲み干す。ああ、傑作の飲み物。犠牲となった命をほんの少し憐れんでやりながら、罪深い快楽に唇を濡らした。
「お兄ちゃん、トマトジュース口についてるよ。」

088.トマトジュース
描写対象:プリンプリン





「バンカーサバイバル観戦できなかったのまだ悔やんでるのか。」
「実物見たらはかどったろうな。バン王の存在と禁貨粒子力学相関仮説の証明……。」
「いっそバンカーになれば?」
「ははっ学者バンカーか。そりゃ傑作だ……。」

089.バン王は何処?
描写対象:世界観





 バンカーサバイバルなんて馬鹿げてる。適当な箱に禁貨を入れて、ぶち壊したモン勝ちでばらまきゃ良かったんだ。そうすれば俺はこんな目には遭わなかったのに。と石化した状態で心に吐き出す悔しさは、虚しく時間を潰すだけだった。

090.禁断の禁貨ボックス
描写対象:ババロア





 断崖絶壁を登るという予選は、身が潰れる程の課題だった。
「僕の体につかまって登れば大丈夫でっすよ。皆でてっぺんまで行きましょう!」
 小さき四人は遠慮がちにうなずき、本選では必ず役に立とうと、顔を見合わせて誓った。

091.予選
描写対象:キャベツの部下





 キャベツに敗けた女バンカーは黙って堪えていました。
(この人は僕と同じだ。)
 彼女の瞳からこぼれた何百粒目かの涙を見ないふりをし、彼は禁貨を奪いました。
 小さき者である前に、女である前に、彼らはバンカーでした。

092.女バンカー
描写対象:キャベツ





「王のバンカー親交政策にはもう耐えられん!」
 国の片隅で嘆く影。しっと制する相方の声。
「王が変わらぬのなら俺が変えてやる。グランシェフを民主国に……。」
「ああ。私も同じ気持ちだ。」
 今は土中に潜む、物語の芽。

093.納得いかない!
描写対象:世界観





 旅行雑誌の南国特集を眺めていたら
「おっ、マカデミア島か。俺様大活躍だったんだぜ!」
 兄がたくさん話をしてくれた。それは雑誌の紹介よりずっと輝いていて、いつか家族皆で行こうねと、同じ気持ちになれたのが嬉しかった。

094.マカデミアアイランド観光旅行
描写対象:プリンプリンの妹





 たくさん集まった禁貨の光は炎のようだ。それとそれを集めた人の輝きを、いつの時代も眺めていたいと思ったが、とうとう禁忌の願いは告げられた。ああ、もうこの炎が燃えることはない。
「バン王わかった。お前の願い、叶える。」

095.最後の灯火
描写対象:バン王





 コロッケたちはとても仲が良い。バンカーサバイバルの後も当然のように連れ立って行った。もし運命が違えば、例えば別の誰かの存在があれば、俺もあそこにいただろうかと考えた所で、まあ俺は俺だなと、気ままな性分に告げられた。

096.天然チーム
描写対象:ダイフクー





 神話扱いされていたバン王の存在が証明され、禁貨を得るために手段を選ばないバンカーの数は爆発的に増えた。
「罪滅ぼしなんて格好つけるつもりはないんじゃ。」
 そう言ってタロは、バンカーサバイバル開催の契約印を押した。

097.悲しんでいても何も変わらない
描写対象:タロ





 コクトーは妙な味の飴を武器にするほど好きで、変な奴だとカクザトーは思う。
 カクザトーは尖っていて格好つけで、掴めない奴だとコクトーは思う。
 全くご当主様はなぜこいつを選んだのか。
(ま、それがこいつの味だな。)

098.くせのある味
描写対象:カクザトー&コクトー





 バンカーは卑劣なものだ。自分の願いを叶えるためだけに武器をとり、冷徹に敵を切り裂く。傷つけあざむき禁貨を奪う。仕方がないのだ、バンカーだから。俺はバンカーなんだから。
 バンカーなんだから。
 バンカーなんだから。

099.卑怯者
描写対象:リゾット





 氷の結晶は青白い刃となり敵を切り裂く。
 が、今シャーベットの作り出したそれは、ハンペンの枕になって優しくきらめいている。相棒の心地良さそうな寝顔を眺め、シャーベットは氷使いであることの矜持を、またひとつ増やした。

100.青白く輝く
描写対象:シャーベット





 木陰で昼寝だなんて、いつバンカーや木のウロに棲む毒虫に襲われるか分からないから、危険極まりない。だからルッコラはそんなことしない、と思いながら太く逞しい木の幹に身を預ける。ここなら安心なんだぞい。ヤキソバの隣なら。

101.大きな樹下で
描写対象:ルッコラ





 レモネードは生まれて初めて誰かを仲間だと思った。雨色の彼を見つめるこの小さな桃色の生き物だけは信じていいと直感した。まるで同じ星のもとに定められたような不思議な安心を感じ、レモネードはチェリーをぎゅっと抱きしめた。

102.初めて会ったその日に
描写対象:レモネード





 幼い弟はきっと理解できなかったでしょう。全てを壊して、全てを捨てて、兄は住み慣れた場所から一歩踏み出しました。その道はまるで定められているようで、彼は固く決意します。
 ここには二度と戻らない。
 ……はずでした。

103.さようなら
描写対象:カラスミ





 彼が民を捨てたのか、民が彼を捨てたのか、もう分からなかった。
 遠い地の忠臣の姿は後者を否定する。それだけで、もう十分だった。
 ユバが見せた最後の微笑みは、壊れていたのか、壊してしまったのか、もう分からなかった。

104.終末の会話
描写対象:マッシュ王





 夢を失ったバンカーが、どこに行くか知っているか。
 禁貨を得るために生まれた憎しみと呪いに夢は壊されて、鋭利な残骸となる。その破片に心を突き刺されて、どうなるか分かるか。
 君には、それを知ってほしくなかったんだ。

105.オレの闘いは終わった
描写対象:世界観





 夢を得たバンカーの、行き着く先はどこなのでしょう。
 禁貨を失ったって夢が壊れることはありません。困難に立ち向かう心はむしろ、あの夕焼けように燃え上がり、勇ましく奮起します。
 私は、すべてを知りに行きたいのです。

106.夕陽に染まるスタート
描写対象:世界観





 僕は絶対にあきらめないですと、息子は父の背中を仰ぎ、勇ましく言った。
 この子は約束をどんな形で果たすだろう。その途中でどんな言葉を交わすだろう。
 その芽が潰えぬよう、必ず。バーグはコロッケを愛しく抱きしめた。

107.”命を懸けてでも守り抜く”と
描写対象:バーグ





 はじめの一枚の音はひどく空虚だった。それでも恐れなかったのは、必ず、必ず叶えたい願いがあったからだ。果たしていない約束が、交わしていない言葉が、山ほどあった。だからそれを迎えにいこう。
 全てはこれが終わってから。

108.全てはこれが終わってから
描写対象:コロッケ




Fin.


作品解説(あとがき)


描写対象キャラクター別索引(五十音順)

アブラミー 036
アンチョビ 007015084
ウィンナー 009
ウスター 021046070073
ウズラ 048
XO 003
オコゲ 050
カクザトー&コクトー 098
カラスミ 062076103
キャベツ 005092
キャベツの部下 091
グルテン 035
コノワタ 052
コロッケ 028030061072079108
サーディン 063
サイダー 083
シシカバブー 065
シャーベット 100
スージー・ニック 040
スズキ 014
ストロガノフ 056
じゃんけんロボット 026
ダイフクー 010096
タロ 060097
タンタンメン 049082
チェリー 019
T-ボーン 006020039077081
T-ボーンの母 029
テト 027
ドリアン 074
ドロップ 068
ニガリ 071
バーグ 024032107
パエリア 013
バジル 033
パセリ 066
ババロア 090
ハム 044
バン王 095
ピロシキ 031
ブーケガルニ 017086
フォアグラー 025
フォンドヴォー 034045055069
フカヒレ 085
プリンプリン 022041064088
プリンプリンの妹 094
プリンプリンの母 016
ポー 075
マスタード 054
マッシュ王 104
メンチ 038
モッツァレラ 011087
ユバ 059
ライム 067
ラオチュウ 037
ラクガン 057
リゾット 001004023047099
ルッコラ 101
レモネード 043102
世界観 002008012018042051053058078080089093105106



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