14.グラジオの写真

中編






「なんでショッピングモールに行きたいと思ったのー?」
 、ハウ、グラジオの三人でモール内を並んで歩きながら、ハウはグラジオに尋ねた。船の中でも同じ質問をしたのだが、なぜだかグラジオは「降りたら教えてやる」の一点張りで、答えてくれなかったのだ。
 無事に船を降りたので約束の答えを求めたわけだが、グラジオはやっぱり口をつぐんだまま。ははあ、これはまた何か恥ずかしがっているな? ととハウが勘繰った時、
「クッキー屋があるのを、知っているか。」
 グラジオはそう言った。
 そういえばハウオリショッピングモールに、なんとかのクッキーショップがオープンしたという話を聞いたような気もする。モモンとかブリーとか、きのみをふんだんに使った自然派クッキーで、ポケモンも安心して食べられるのが売りらしい。ただ、その手の広告はよく目にするから、それがグラジオの思っている店と一致するのかは自信がなかった。
 ハウも似たような感じで記憶を探っていたが、一応「そういえばあったかもー」と答えた。
「その店のクッキーが欲しいんだ。財団の職員たちが話しているのを聞いて……形が可愛くて美味しいとかで、食べてみたいって……その、母がああなって以来、ばたばただったろ。ずいぶん迷惑や苦労もかけたと思うから……礼にもならないかもしれないが……」
 プレゼントか。だから財団職員が一緒にいる船の中では話したくなかったのだ。事情を理解したは、思わず頬をゆるめた。ハウも同じ顔をしていた。そしてハウは、本当に素直じゃないねーグラジオは、とでもこぼしかけたのを腹に収める間を取った後、
「あそこにモールの案内板があるよー! クッキー屋さんどこにあるか見よー!」
 たたたっと道を駆け、とグラジオに向かって手を振った。
 グラジオはそんなハウの背中をゆっくり歩いて追いかけながら、
「本当に落ち着きがないな、ハウは。」
 とこぼした。
 案内板の上でクッキー屋の場所はすぐに見つかった。が、今たちがいる場所からは少し離れていた。それで三人はモールの中をぷらぷらと歩きながら、目的の店を目指すことにした。
 ポケモン用衣類のブランド店、ヤミラミをロゴにあしらった宝石ショップ、いかにも観光客向けの花飾りや土産用菓子の箱をずらっと並べたチェーンストア……。店舗の内装も外装も、通路や壁に植えられた様々な植物も、思い思いにショッピングモール内を彩って、まるでアローラ中の色が一堂に会しているようだった。
 グラジオは右に左に顔を動かして、そんなにぎやかな虹色と、その中を行き交う人やポケモンの様子を眺めていた。
「グラジオはショッピングモール、あんまり来ないの?」
 が声をかけると、グラジオは「うん」と答えた直後、視線をぱっとこちらに寄越して「ああ」と言い直した。
「スカル団にいた頃は、ヌル……シルヴァディを鍛えることしか考えていなかったから……。」
「そうなんだー。じゃあ気になるお店があったら入るといいよ。ゆっくり行こー。」
 と言いながら自分のほうがショーウィンドウをのぞきに行っているハウに、グラジオは何かまた尖った言葉の一つでも投げつけるかと思ったら、
「……そうだな。ありがとう、ハウ。」
 素直にそう言ったので、は思わず目を丸くしてグラジオの横顔を見た。
 ただ、
「そんな小さな声じゃ、ハウには聞こえないよ?」
 と指摘したには、うるさいなっ、とツンツンに尖った声が返ってきた。照れ隠しだった。


 結局とハウとグラジオは、帽子屋でシルヴァディ色のキャップをグラジオに被せてみたり、アローラ・フラを踊るドレディアを連れた客引きに呼ばれたり、ステージ広場のライドポケモンショーに足を止めたりで、五分で歩ける距離を一時間くらいかけて目的のクッキー屋に到着した。
「そういえば今日の目的って、クッキーだったね。すっかり忘れてたよー。」
 可愛らしいポップカラーのポケモンときのみのイラストで飾られたクッキーの店舗に入った時、ハウは冗談抜きにそう言った。
 いろんなきのみの形をした店内のクッキーを見て、グラジオは「これだ、職員たちが言っていたやつ」とほっとした様子だった。早速、詰め合わせの箱を物色し始める。
 その間とハウは暇だったので、味によって異なるきのみを模しているクッキーを眺めたり、パッケージに描かれているポケモンについて話をしたりした。花の代わりにたくさんのきのみをぶら下げて運んでいるキュワワーのイラストが、ハウは特に気に入ったそうだ。試食もさせてもらった。ポケモンへの試食も促されたので、ルガルガンやライチュウをボールから出してわいわいしているところに、グラジオが買い物を終えてやって来た。
「わー、かなり買ったねー!」
 グラジオが提げている紙袋の大きさを見てハウがちょっと驚いた声を出す。グラジオは満足そうにうなずいた。
「これだけあれば足りると思う……みんな喜んでくれるといいんだが。オマエたちも、付き合わせてしまって悪かったな。」
「いえいえ。もクッキー試食させてもらって嬉しそうだし。」
 口回りについた食べこぼしをぺろんとなめとり、わふ! と吠えたのルガルガンに、グラジオは優しい眼差しを向けた。
「オレたちも腹が減ったな。」
「ゆっくり来たからもうとっくに十二時回ってるもんねー。お昼ごはん、どこで食べようか? バトルバイキングもそろそろ席空いてるかもしれないしー。」
「バトルバイキングも興味があるが……。」
 グラジオは少しためらいがちに、それでもたちとショッピングモールに行きたいことを言い渋った時よりはあっさりと、口にした。
「ハンバーガーが、食べたい。」



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