12.エーテル財団職員の写真

後編






 エレベーターで一階まで降りると、エントランスの受付カウンター前でビッケが手を振っているのが見えた。
「大変お待たせいたしました。どうぞ、みんな外におります。」
 ビッケに案内されて建物の外に出ると、青い空と海を背景に、エーテル財団の職員とポケモンたちが、ずらりとそろってとハウを待っていた。保護区で仕事をしていたのと同じ制服の男女はもちろん、地下で研究を担当している者や、保護されたポケモン、それからルザミーネの手持ちと思しきピクシーやキテルグマまで勢ぞろいしていた。エーテル財団アローラ支部の元支部長――現ヒラ職員のザオボーまで来てくれている。もっとも、ザオボーはかなり不服そうな表情をしていたが。
「まったくなぜこのわたしが……こんなお子さまたちの……だからヒラの職員なんて……」
 ぶつくさ言っているザオボーは捨て置いて、ビッケは「こちらです」とたちを手招いた。
「ここから海をバックにして撮っていただければ良いかと思います。リーリエ様は海を眺めるのがお好きでしたから……。」
 ではみなさん打ち合せ通りお並びください、とビッケにみんなを並べてもらっている間に、はロトム図鑑を準備した。保護区で体を温めていたロトムの調子は絶好調だ。職員とポケモンたちはいい顔をしてレンズに笑みを向けている。ただ一人ザオボーを除いては。
「ザオボーさん。」
 ザオボーの態度に気がついたビッケは、彼が逃げないよう腕をつかみ、少々強めの口調で名前を呼んだ。今はもう肩書で呼ぶよう訂正されることがないので、遠慮なしだ。ザオボーも、何も訂正できないのがとても遺憾だったのだろう。ビッケの言葉に応じる前に、精一杯の抵抗としてむすっとしたその瞬間。突然ザオボーの後ろにいたキテルグマの腕が伸びて、ザオボーを捕まえた。まるでこの状況を理解し、ビッケあるいはとハウ、あるいはリーリエとルザミーネに助力するように、そのもふもふブラックの剛腕が無言でザオボーを圧した。
 キテルグマの意思はたぶん、密着しているザオボーには最もよく伝わっただろう。ザオボーは渋く引きつったものではあったけれども、一応笑顔と呼べそうな表情を浮かべて手を上げた。側にいた男性職員が、その不自然な微笑みにぎょっとしたのか、記念撮影の概念を理解しているキテルグマの行動に驚いたのか、目をまん丸くしていた。
「シャッターチャンスロト! はい、アローラ!」
 軽快なシャッター音が数回響き、みんなの笑顔を切り取った。

 写真を撮り終えると、職員たちはめいめいリーリエやルザミーネへの伝言を預けてくれ、中には寄せ書きを書いてくれた者もいた。
「病気の代表をお連れになって一人でカントーに行くなんて、やっぱり無茶だと思うんですよ。いつでも私たちに声をかけていただきたい。」
「野生のポケモンに襲われて困っていないでしょうか。虫よけスプレーを一箱ほど手配しておいたほうがよろしいですかね。」
「食事も心配です。それに着る物も。カントーはアローラとだいぶ気候が違いますから。適切な装いを選ぶのを、お手伝いさしあげないと……。」
 一周回って過保護ともいえる職員たちの心遣いに、たちは苦笑した。ルザミーネの箱入り娘であるリーリエの姿しか見ていない彼らにとっては、仕方のないことかもしれない。
「リーリエなら大丈夫です。」
 きっぱりとそう伝えたに、職員たちは少し驚いた顔を向けた。
 リーリエはさー、とハウも助太刀する。
「着る物も食べる物も、ちゃんと自分で選べる人だよー。それにポケモンとの距離感だって、分かってる。おれたちの島巡りにずっと付いてきてくれていたし、ほしぐもちゃん……コスモッグを守り抜いたのだって、リーリエだからねー。それになによりリーリエ、カントーでポケモントレーナーになるって、言ったんだからー!」
 職員たちはますます驚いたが、たちの口調に思うところがあったのだろう。年近い者たちの言うことならばと、納得してもらえたのかもしれない。
「そうですか……そうですよね。すみません。つい、私たちの責任を果たさねばと焦ってしまいました。」
 しゅんとして謝る職員たちに、悪気はなかった。彼らもただ、あれほどの大事件が起きた後、自分たちに何ができるか必死に考えているのだった。ルザミーネの真意を知らなかった者も、知っていた者も、エーテル財団の職員として今を生きている。それぞれの責任を果たそうとしている。
 職員たちは改めて、リーリエたちによろしくと温かな言葉を寄せてくれた。とハウは彼らの思いをしっかりと受け取った。
「それでは船着場までお見送りしましょう。グラジオ様が戻りましたら、また連絡しますので。」
 ビッケが申しでた。職員たちが手を振って二人を見送ってくれた。ザオボーまでも小さく手を上げていたくらいだ。まあ、いまだにキテルグマの腕に捕まった状態だったけれど。
 とハウは礼の言葉と共に元気よく手を振り返すと、ビッケと連れ立って船着場へ向かった。



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