1.プロローグ





 青い空。白い雲。アローラの輝く太陽が、木々に光の恵みを、花に鮮やかな色彩を与えている。
「んー、今日もいい天気!」
 ベランダで洗濯物を干しているママの満足そうな声が聞こえて、もふふっと微笑んだ。
 ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴ったのはその時だ。
「あら、誰かしら? 、出てくれる?」
「はーい。」
 と、がドアを開けるよりも早く、ドアノブがくるりと回って、来訪者が姿を現した。
「アローラー! 潮風に誘われ遊びに来たよー!」
「ハウ!」
 よく見知った少年の笑顔に、は歓迎の「アローラ」を返した。ママもベランダから家の中に入ってきて、ハウを見つける。
「ハウくんアローラ! いらっしゃい。」
「お邪魔してまーす。」
「どうしたの、ハウ。いきなり来るからびっくりしたよ。」
「うん、あのねー、おれすげーいいこと思い付いたんだ! だから早くにも教えたくってー!」
 ぴょんぴょん跳ねて言葉を紡ぐハウは、まるでポケマメを前にしたイワンコみたいだ。は笑いをこらえながら、分かったから落ち着いて、とハウをなだめた。ハウはへへっと一息ついて照れ、あのさー、と改めて口を開いた。
「リーリエに手紙を送ろう! おれとで! アローラのみんなの写真、いーっぱい付けてさー!」
 アローラの太陽にだって負けないくらいの光が、ハウの瞳の中に見えた。


 リーリエに手紙を送る、という話は聞いていた。リーリエとの別れの日、ハウ自らがそう約束していたからだ。すっごい長い手紙を書くから、と。
「で、その手紙にアローラのみんなの写真も同封すれば、今どうしてるかよく分かっていいでしょー。それを撮って回るのをに手伝ってほしいんだ。」
 ハウをリビングに招き入れて二人で椅子に腰かけ、落ち着いて伺った話はそんな内容だった。「なるほどね」とはうなずく。
「そういうことなら、で良ければ。頼もしいロトム図鑑もいることだし。」
「ボクにお任せロト! 写真を撮るのは大得意ロト!」
 ロトム図鑑が二人の間をぴゅんぴゅん飛び回った。島巡り以来の大仕事に、体中の電子を震わせて張りきっているようだ。
 期待してるよー、と声でロトムを追いかけた後、
「考えていることはもう一つあって、」
 とハウは続けた。
「写真を撮るついでに、リーリエ宛に寄せ書きしてもらうのってどうかなー。みんなから一言ずつあったら、嬉しいかなって思ってさー。」
 こういう紙に、とハウはリュックから一枚の紙を取り出し、一人当たりこれくらいのスペースで、と指で紙の上に円を描いた。
「わあ、それはとっても良いアイデアだね!」
「でしょー!」
 ハウはに賛同してもらえて安心した様子だった。
「あっ、そうだ。良かったらもリーリエに手紙書こー。寄せ書きとは別に。」
「あれ、ハウが書くんじゃなかったの。すっごい長いやつ。」
「もちろん書くけどー。でもおれ一人分じゃただの長いやつでしょー。も書いてくれたら、二人分で『すっごい』長いやつになるかなって思うんだー。」
 上手いこと言ったつもりなのだろうか、ハウがにーっと歯を見せている。その表情を眺めていたら、なんだか頬がゆるんでしまって、
「分かった。頑張って書いてみるよ。」
 と約束した。
「みんなの写真を撮りに行くの? じゃあとハウくんの、二周目の島巡りってわけね。」
 キッチンからパイルジュースを持って現れたママが、飛び回っているロトム図鑑を眺めながら言った。ロトムは「アローラのみんなの写真撮るロトー!」とか「試し撮りモード、試し撮りモード」とか言いながら、部屋中を撮影していた。活躍の場が与えられて、とっても嬉しそうだ。
 ハウは、テーブルの上に置かれたパイルジュースに礼を言ってから、「島巡りほど長くはかからないと思うけど」と頭をかいた。
「でもー、確かにそうとも言えるかもー。」
 とハウは互いを見る。二人で一緒に島巡りを始めたのがほんの数日前のことのような、もう三年くらいは経っているような、不思議な感じがした。を眺めるハウの心には今、二人の島巡りのどんな場面が映っているだろう。
「二周目もよろしくね、ー。」
 ハウの言葉に、は「うん!」とにっこり笑みを見せてうなずいた。



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