*序*


  、今から兄さんの言うことをよく聞くんだ。
 、お前は火を操れる。お前の火はまるで生き物のように動くね。
 だが、いいかい。その火を、むやみに出してはいけないよ。小さな火の生き物は、油断すると何もかも飲み込んでしまうからね。何もかも。
 いいかい、分かったかい。
 ――よし、いい子だね、……。







 の周りは火の海だ。
 なぜこうなったのか分からない。突然大きな音がして、知らない男が何人も家の中に入ってきて、叫び声が聞こえて、強い衝撃が走って、悲鳴が聞こえて、気が付いたら家族とはぐれていて、知らない人が目の前に立っていて、その目が冷たくて、気持ち悪くて、こわくて、こわくて、こわくて、こわくて、そして自分の中で何かが爆発して――。
 の周りは火の海だ。なぜこうなったのか分からない。何も分からない。パチパチと音を立てながら、炎が何もかも飲み込んでいく。何もかも。
 熱い。炎は、次はきっとを飲み込むのだ。
 熱い。逃げることはできない。
 熱い。はぐったりと床に倒れこむ。
 あつい。だれか、たすけて。
 おとうさん、おかあさん、おにいちゃん。

 誰かがを見下ろしている。気付いたは弱々しく顔を上げる。知らない人だ。黒いマントを着た男だ。いやだ、こわい。は身じろぐ。男の黒マントにポッと小さな火がつく。周囲から燃え移ったのではない。まるで誰かに操られた小さな火の生き物がぱくりと食らいつくかのように、男のマントにまた小さな火がつく。男はその火を見る。そしてそれを握りつぶして消した後、今度はを見る。は身じろぐ。逃げなければ。だが、身体が動かない。こわい。こわい、こわい――。

 大丈夫だ。

 男が穏やかな声で言う。

 おいで。

 不思議と、惹きつけられる声だ。は男を見る。男もを見る。

 さあ早く。ここはもうすぐ崩れる。

 男の目は冷たくない。気持ち悪くない。こわくない。
 男がを抱き上げる。は抵抗しない。熱さが遠のいていく。疲れがどっと押し寄せてくる。男の腕の中は、とてもあたたかい。

 はそのまま、意識を失った。




To be continued...

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