王子と覆面男
その男にはもちろん、義務はなかった。揉め事とか危険とかいうものを、極力避ける性分だった。
だが、彼は来てくれた。
「なぜ、王様だーれだ大会に参加してくれたんだ?」
急にリゾットにそう問われ、プリンプリンは不意をつかれた間抜けな表情で、なんだよ突然、と答えた。
これがコロッケならば、迷いも曇りもない眼差しで、だってオレたち友達だろ! と言うのだ。コロッケがそう言った時、たまたまプリンプリンもそこにいた。「オレたち」の中に含まれていた。
「……まあ、成り行きだよ、成り行き。」
そしてプリンプリンはそのことを否定しなかった。
それが彼の言う、成り行きだった。
リゾットは、フ、と笑う。
「ありがとう。」
「な、なんだよ、今さらだな。」
「すまない。けど、本当に感謝しているんだ。プリンプリンにも、それにプリンプリンの家族のみんなにも。」
プリンプリンは、少し誇らしげに口端を上げる。
「まあいいってことよ。宮廷料理もいいけど、家庭料理もなかなか捨てたもんじゃなかっただろ、王子様?」
違いない、とリゾットは頷いた。そして、彼は本当に家族を愛しているのだなと思った。
なぜプリンプリンは来てくれたのか。その答えは、彼が長子だから――窮地に陥った王子の身元を引き受けた一家の長男だからというところにも起因するのかもしれないと、そんな考えが一瞬頭をよぎった。
「なあ、プリンプリン。」
ん? と彼は返事をする。だがリゾットは、続きを言うのをやっぱりやめた。
代わりに彼は、こう言った。
「また、遊びに行ってもいいかな。」
ふん、とプリンプリンはニヤリ顔を浮かべる。
「ま、特別に許可してやらんこともねーな。」
それはたぶん、最上級の返事だった。
それでリゾットも、穏やかに微笑んだ。
Fin.

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