模倣した本物










 何かとっておきの隠し事があるかのようにニヤニヤしながら、テトとポーがふたを開けたバスケットの中に、禁貨がぎっしりきらめいていると思った時には、さすがのリゾットも驚いた。だが、何のことはない。よく見るとそれらは、禁貨模様の入った金紙で包まれた、たくさんのチョコレートだった。
「私たち二人から、みんなにプレゼントよ。」
 バスケットをのぞきこんで、喜ぶやらがっかりするやらの男性バンカーたちに、ポーが言った。
「今日はチョコレートをあげる特別な日だからね。」
 とテト。
 真っ先にバスケットに手を伸ばしたコロッケはその包み紙をむき、わあと歓声を上げた。
「ほんとにチョコレートだ!」
「ふふ、面白いでしょ。禁貨チョコレート。みんなにピッタリだと思って。」
「よくこんなの見つけたなあ。一瞬本物の禁貨かと思っちまったぜ。なあ?」
 同意を求めてきたウスターに、リゾットは別に、と短く答えて禁貨チョコをかじった。
「あーあ。本当にこれ全部、本物の禁貨だったら良かったのによー。」
 そう不満げに言うプリンプリンは、すでに三枚目を手にしていた。嫌だったら食べなくていいのよ、とポーにチョコレートを奪われそうになり、慌てて美味しゅうございます、と下手に出る。
「でも、バンカーにとってはそうだよね。ごめんね。」
 残念そうな笑顔を見せるテトに、そんなことないでっす、とってもおいしいでっす、とキャベツが礼を言った。ありがとう二人とも、とフォンドヴォーもそれに続く。
「リゾットも、本物の禁貨のほうが良かったかしら?」
 ポーが、少し意地悪げに尋ねる。
 その時コロッケが一枚のチョコを手にとって、いただ禁貨ー! と空高く放り上げた。宙を舞ったそれは見事メンチの手中に収まり、周りで見ていた仲間たちは笑いながらパチパチと拍手する。
 リゾットは、口の中でやわらかくとける甘さを感じながら、ポーに答えた。
「いや……。」
 彼は微笑む。
「おいしいよ。ありがとう。」
 ポーと、それからテトも、彼のその答えを聞いて嬉しそうに微笑んだ。


Fin.





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