ガラクタの上
――チェリー……。
街が最も暗い時間。深夜ビカビカと甘ったるい色に輝いていたネオンサインの灯も消え、太陽がまだ眠っている時間。廃屋の陰、乱雑に散らかったガラクタの上に気だるそうに寝転がっていた少年が、ぼそりとつぶやいた。
はたから見れば、少年はまるで死んでいた。ガラスの破片、腐った板切れ、解きほぐせないほど無秩序に絡まり合った何かのコード……累々と積み重なったガラクタの頂点に転がっている少年もまた、それらのガラクタの一部だった。
――最悪だ。さっきの動き……。
少年は深い呼吸を繰り返していた。ガラクタの所々に点々と赤黒いしみがついていた。そのしみの上を、小さな影が横切った。ガラリとかすかにガラクタの崩れる音がした。
――今回は、なんとかなったけどな……次は、ねえぞ。
小さな影は少年から少し離れた場所で、動かなかった。それは少年の声を神妙に聞いているようであり、ガラクタの上の赤黒いしみにじっと見入っているようでもあった。
静寂が続いた。少年は深い呼吸を繰り返していた。小さな影は動かなかった。積み重なったガラクタは、冷たかった。
――チェリー……。
少年の口からかすかに息のもれる音がした。小さな影にとってそれは、反応するに十分足りるほどのかすかな音だった。
――オレはな……。
少年は深い呼吸を繰り返している。小さな影のほうは見ていない。見たところで、この闇の中、少年にその姿がはっきりと見えることはなかっただろう。ただ彼はそれの存在を、それが彼の側に在ることを、知っているだけだった。
――勝利とお前だったら、簡単に勝利を選ぶからな……。
少年のかすかな声はガラクタの間、廃屋の陰にさまよい響き、再び少年の上に落ちた。それが心地悪かったのか、それともどこかの傷が痛んだのか、その時少年はわずかに眉をひそめた。
――分かってるな、チェリー……。
痛みをごまかすように少年はつぶやいた。
小さな影はしかし、それに声では答えなかった。代わりにそれはガラリとかすかにガラクタを崩し、そっと少年に寄り添った。
影が触れた少年の肌は、わずかにぴくりと強張った。だがそれは一瞬のことで、少年は影を振り払うこともしなければ、それをさらに近付けることもしなかった。彼はただ、それをそのままに置いていた。小さな影もまた、それ以上少年に近づくことも、離れることもしなかった。
街が最も暗い時間、廃屋の陰、ガラクタの上に、深く静かな呼吸が響いていた。それに寄り添う小さな影は、じっとその場を動かなかった。
暁の空が、白み始める。
Fin.

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