チコリータのオハナ










 そのチコリータはみんなから嫌われていました。普通のチコリータとはちょっと違う、黄味がかった体にオレンジ色の葉っぱがゆれる女の子でした。
「あっちいけよ。」
 他のポケモンが冷たい目でチコリータを見ます。
「お前なんて嫌いだ。」
 顔を合わせるなりそう言われることも少なくありません。
「この世界にお前の居場所はない。」
 やっと出会えたポケモントレーナーにも捨てられてしまいました。
 どうしてこんなにもみんなから嫌われるのか、チコリータには分かりません。ずいぶんあちこちさまよった後、たどり着いたのはアローラ地方でした。

 一人のポケモントレーナーがチコリータを抱きあげました。彼女は今までの人たちとは少し異なる雰囲気で「可哀想に。」と言いました。
「私はあなたと一緒にいてあげることはできないけれど、きっと気に入る場所に連れていってあげるからね。」
 ポケモントレーナーの温かな腕にすっぽりと抱えられて、チコリータがやって来たのは牧場でした。ケンタロスやミルタンクやたくさんのポケモンたちが、のびのびと走りまわったり、草をはんだりしています。
 牧場のすみっこに小さな花園がありました。赤やピンク、黄色や紫の花で満ちた、良い香りのする場所です。ポケモントレーナーはそこでチコリータを降ろしました。
 チコリータはきょろきょろと辺りを見回しました。すると、こんもり花が咲いた茂みから、大きな緑の葉っぱが一枚ぴょこんと飛び出し、目の前に一匹のチコリータが現れました。さらにもう二匹ぴょこん、ぴょこん。さらにがさりとベイリーフまで!
 嫌われ者のチコリータは、とっさに四匹から一歩離れると、体をきゅっと小さくしました。またひどい言葉をかけられると思ったからです。
 ところが現れたチコリータたちは、みんな口々に「はじめまして!」「こんにちは!」「アローラ!」と挨拶し、嬉しそうに頭の葉っぱをぱたぱた振りました。
 嫌われ者のチコリータはすっかり驚いて、ただ目をぱちくりさせてチコリータたちを見つめています。
 その時、向こうの木立からずん、ずんと足音を鳴らし、メガニウムがこちらに歩いて来ました。
「ようこそ、可愛いお嬢さん! 今日から君も僕たちのオハナだよ。」
 チコリータの前に立ち止まり、メガニウムは言いました。
「オハナ?」
「この地方の古い言葉で、家族という意味さ。」
 にこやかにそう教えるメガニウムに、チコリータはおそるおそる尋ねました。
「私のこと、嫌いじゃないの?」
「えーっ、嫌い!?」
「どうしてー!?」
「会ったばっかりなのに!?」
 ぴょんぴょん跳ねながらびっくりしているのは先ほどのチコリータたちです。ベイリーフとメガニウムも、不思議そうに首をかしげています。
「だって、みんな私のこと嫌いだって言ったわ。消えてしまえ、いなくなれって、何度も何度も言われたわ。私はいちゃいけない存在だって。」
 チコリータの夕焼け色の葉っぱが、今にも枯れ落ちそうなほどしょんぼりと垂れさがり、彼女の顔を覆いました。
 メガニウムはその葉を鼻面で優しく持ち上げました。メガニウムの瞳の中にチコリータの姿が映っています。
「誰からも嫌われて、消えてしまって忘れ去られるために生まれてくる存在なんて、そんなのあるわけないじゃないか。君はとっても素敵な金色のチコリータだよ。」
 そんなふうに誉められたのは初めてでした。「そうだよ!」「赤い葉っぱもすごくきれい!」とチコリータたちも言っています。
「君のオハナになれたら僕たちとても嬉しいんだけど、なってもいいかな?」
 メガニウムが問いかけました。
 金色のチコリータはメガニウムに抱きついて、銀色の涙をぽろぽろこぼしながら、何度も何度もうなずきました。

 アーカラ島のオハナ牧場をずっと奥に進んだすみっこに、小さな花園がありました。そこではメガニウムとベイリーフとチコリータと金色のチコリータが、いつまでも仲良く静かに暮らしているとのことでした。



おしまい



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