「ハッピーバレンタイン、ー!」 ハウが差し出した花束を喜んで受け取ろうとすると、突然キュワワーが飛びだして勢いよくに抱きついた。 「わ、キュワワー!?」 「そ! 今年のおれからのバレンタインプレゼントは、花束とキュワワーだよー。びっくりした?」 ハウはいたずらっぽく笑みを浮かべ、の返事を待っている。キュワワーも腕の中からを見上げ、同じようにわくわくとした様子だ。きっとこの瞬間のために、花束のどこに潜っておくかとか、どんな合図で飛びだすかとか、二人でいろいろ計画を練っていたのだろう。その光景を想像するとなんだか微笑ましくて、はくすくす笑いながらうなずいた。 「すごくびっくりした。ありがとうハウ、キュワワー!」 でもどうして急にキュワワーを? サプライズが上手くいって喜んでいるハウとキュワワーを横目にはいぶかしんだ。しばらく考えて、あっと思い当たる。 少し前、ハウと一緒にマルチバトルでバトルツリーを登っていた時のことだった。順調に勝ち進んでいた二人だったが、結構な高さまで登ったところで惜しくも敗退した。 「ああぁ……ごめん、ハウ。の判断ミスだった……。」 「ううんー。おれだってもっといい戦い方できたと思う。のせいじゃないよ。」 ハウはそう言って慰めてくれたが、それはひとえに彼の優しさによるもの。自分の選択に、戦略に、大きな穴があったことをは痛感していた。ハウのポケモンたちは、少々の遅さや防御の甘さはいとわず高い威力の攻撃を得意とする。であればのポケモンは、その長所を活かしたり穴を埋めたりする役回りに徹した方が、良い結果になることもあるだろう。少なくともさっきの敗北戦はそうだった。 「つまりの戦略、いやチーム編成から見直し……サポートが得意なのはタブンネ? でもイッシュ地方のポケモンだしメガストーンも……そうだ、アローラならキュワワーとか!」 ぶつぶつと考えた果てに思いついて叫んだ時、ハウと目が合ったのを覚えている。ハウは少し驚いたような顔をして、まじまじとを見つめていた。その場はお互い気恥ずかしげに笑み交わして終わったのだが、きっとハウはその時のの叫びを気にかけていてくれたのだろう。 「キュワワー、大切に育てるね、ハウ。」 花束を抱え、ふわふわ浮かぶキュワワーに鼻先でキスをして、はにっこりと笑った。ハウも「うん」と答えてやわらかな表情を見せたが、やがてうつむいて目を泳がせた後、何か言いたげにを見た。 「あのさ、。」 改まったハウの物言いに、もちょっとどきっとして「はい」と背筋を伸ばした。 「おれー、頼りないかもしれないけどー、どんな相談だって乗るから。」 相談に乗ることとキュワワーをプレゼントすることとどういう関係があるのだろうと得心しない様子のに、こないだのバトルツリーの後、とハウは言葉を重ねた。 「、自分の判断が悪かったって思いつめて、おれの話聞いてなかったでしょー。おれだってあそこで気合い玉を選ばないほうが良かったとか、守るを採用した方がいいんじゃないかとか、いろいろ言ってみたのにさー。」 ぎくりとした。ハウそんな話してたのか。自分のことで頭がいっぱいで、全然記憶になかった。だがが罪悪感に囚われる前に、ハウは「まあそんなことはどうでもよくってー」との両手をぎゅっと握って包みこんだ。 「とにかく一人で悩まないでほしいんだ。なによりおれが、と楽しくバトルしたいんだ。おれ、まだ全然にとって満足いく強さじゃないかもしれないけど……」 気弱に揺れるハウの瞳は、しかしの視線を捉えた時、強い光をたたえていた。 「おれはこれからものパートナーでありたい。だからー、また一緒にバトルツリー登ってくれる?」 繋いだ手から、ハウの体温が伝わる。その真剣な眼差しに見据えられ、は胸の奥に火が付くような心地がした。こんなに近くにいてくれる人を置いて、はどこへ行こうとしていたんだろう。 「こちらこそ、よろしくお願いします。」 の答えを聞いた瞬間、ハウは持ってきた花束にも負けないくらい、顔をほころばせた。もっともがその色を長く眺めていることはできなかったのだけれど。なぜならハウは笑顔と同時に、に大きなハグをプレゼントしたからだ。 「、大好きだ。」 耳元で聞こえる声は、いつもよりやたら大きく響く。ぎゅうっとを抱きしめるハウの体は温かい。口を開けたら心臓が飛び出てしまうような気がして、は黙ってこくこくとうなずいた。 いつの間にどこから摘んできたのだろうか、キュワワーが二人の頭におそろいの花冠を落として、祝福するように鳴き声を上げた。 Fin. もどる |