うめぇ棒が食べたい










 うめぇ棒、食べたいな。
 はふとそう思い立って、楽駄屋に向かった。
 いつも小学生でにぎわっている店内に、その日はたまたま一人しか客がいなかった。赤いヘッドホンを着けた黒髪の小学生男子――桜田セキトだった。彼は偶然にも、が目的としているうめぇ棒棚の前で、買い物の最中だった。セキトは左手に三本のうめぇ棒を持ち、右手で棚からうめぇ棒を一本取り確認して棚に戻し、また別のうめぇ棒を一本取って確認しては戻ししていた。
「何味にするか悩んでるの?」
 はセキトに話しかけた。セキトは不意をつかれた顔でを見、ややどもりながらか、とつぶやいた。
「ああ。黒糖味が欲しかったんだが、売り切れみたいだ。代わりにどれがいいのか、分からない……。」
 セキトは困り顔で棚を見つめていた。うめぇ棒、味いっぱいあるもんねと言いながらはセキトの隣に立ち、ざっと棚を眺めて黒糖に代わる味がないか探した。
「あっ、シュガーラスク味。甘いのが好きなんだったら、これがいいんじゃない?」
 一本取ってセキトに渡した。セキトは受け取ったそれにしばらく視線を落とし、それからを見てちょこっと首を傾げた。
「これって、そんなに味が違うものなのか。」
「そうだなあ。似たような味もあるけど、基本的にはどれも個性があるね。」
「そうか……。はどれが好きなんだ。」
? は……これかな。」
 が指すと、セキトはそれを手にとって、先の四本と一緒に代金を支払った。そして振り返った彼の赤い瞳がをとらえた。と思う間もなく、ほら、と言うセキトの声とうめぇ棒が一本、に向かって飛んできた。が好きだと言って選んだ味だった。
「これでツケは無しだ。」
 セキトは少し微笑む。
「シュガーラスク、選んでくれてありがとう。」
 そうしてセキトは楽駄屋を出て行った。はセキトがくれたうめぇ棒を手に持ったまま、ぼんやりとその背中を見送ったが、やがて呆れたように笑みをこぼした。


Fin.





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