青い禁貨窃盗事件!

―後編―











「博物館……? 逆戻りだっぺか。」
「博物館の裏。そこに隠されてるはずや……たぶん。灯台下暗しとも言うしな!」
 本当を言うと、にも確信はなかった。ただ、手がかりが少ない時は犯行現場に戻ってみたほうがいいのは確かだ。
 T-ボーンは紙切れをひっくり返したり裏から透かしてみたりしながら、よく解けたなあと感心の声をもらしていた。は少し苦笑しただけだった。

 暗号を解くのにだいぶ手間取ってしまい、彼らが博物館に再び着くころには西の空が淡いオレンジに染まりはじめていた。
 正面入口の前を通り過ぎ、博物館の裏手へ回ろうとしたちょうどその時、
「しかし彼らがあんな紙切れを見つけ出さなければ、あいつらを逃さずにすんだはずだ!!」
大きな怒鳴り声が聞こえた。
「な、なんやあ?」
「メガネのおっちゃんっぽいな。」
「うん、もそう思うけど……けど、今なんて?」
「『メガネのおっちゃんっぽいな。』って言ったんだっぺ。」
「え? ……いやいやそうやなくて。そのメガネのおっさんが今なんて叫んだんかなって……」
 再び博物館の中から声が聞こえる。何と言っているのかははっきり聞き取れなかったが、どうやらだいぶもめているようだ。
「何かあったんだべか?」
「さあ……。行ってみるか。」
 T-ボーンはうなずいた。
 博物館の中に入ると、若干人数が増えているようだった。警官だ。
「とにかく、我々も全力で犯人たちを探しますから。それに、えーと、その青い禁貨も。」
「よろしくお願いします。」
 と、警官がくるりと振り向いたので、とその警官との目がバッチリ合ってしまった。
「あ、えー……君は?」
「またお前たちか……!」
 後ろでメガネの職員のうんざりしたような声が聞こえる。
「なんかもめてるみたいやけど、どうかしたん?」
「どうしたもこうしたもあるか。逃げられたんだよ、あいつらに。」
 思わずとT-ボーンはえーっ! と同時に声をあげてしまった。
「逃げられたって……なんで!? ずっと見張ってたんやろ?」
「うむ……。しかし、暗号に少し気をとられてしまってね……。ほんの少しの隙に手錠と縄をひきちぎって逃げてしまいよった。」
 館長が答える。
「なんてバカ力だっぺ……。」
「同感や……。」
 呆然とするたちをよそに、警官はきびきびとした動きで扉へ向かう。そして、出て行く前にこちらを振り向くと、
「では、私も彼らを探してきますので。」
と、一礼した。
!!」
 警官が出て行くのを見届けながらT-ボーンが叫んだ。
「オラたちも犯人を探すっぺ!!」
 彼はの返事を聞く前に扉へと走り出した。
「館長さん、メガネのおっちゃん! オラたち絶対犯人を捕まえてくるから、安心して待っててくんろ!」
 T-ボーンはそんな根拠のないことを言いながら振り向いて、にかっと自信満々の笑顔を見せた。
「お、おい君たち……」
「へへ、そういうことや。それにあんた、犯人が逃げたのはらが紙切れを見つけたせいやって、さっき叫んでたしな。まっ、責任とらなあかんみたいやから!」
 メガネの職員の言葉をさえぎってはそう言い、そしてT-ボーンに続いた。
 二人の少年が出て行き、扉がバタンと音を立てて閉まった。一人の職員が館長の方に目を向けたが、もの静かなその老人はちょっと肩をすくめてみせただけだった。

「で、T-ボーン!! 一体どこから探すって言うんや!?」
 走りながらは叫んだ。と、T-ボーンは少し速度を落とし、言った。
「すまん。考えてなかったっぺ。」
「ええーっ!」
 二人は立ち止まった。
「じゃあなんで飛び出してきたんや。」
「さあ……なんでだろうな。ただ、オラ許せねえんだべ。人のものを盗むってのは、最低のことだ。オラはいつも村でそう言われてきた。実際、オラの村には泥棒なんて汚いことするやつは一人もいないしな!」
「ふうん。なるほどなあ。」
 は腕組みをした。
「だけど困ったな。どこをどう探せばいいんやろう……。」
 逃げた犯人たちはおそらく青い禁貨を持って逃亡するだろう。ということは、彼らはまず禁貨の本当の隠し場所、あの暗号文に示されているはずの場所へ向かう。ならばもう一度暗号文を解くことに挑戦してみるか? は自分のポケットに手を突っ込み、暗号文を取り出そうとしたが、すぐにやめた。そんなことをしている間に犯人は街を出ていってしまう。もっと落ち着いて犯人たちの行動を考えなきゃ。
「街を出る……街を出るときに通るルートは……」
 まずは街の北側……は、博物館のある方向だ。犯人たちはなるべくここからは離れたがるはずだ。
 次に西側。しかしこちらには警察署がある。みすみす捕まりに行くなんて、そんなバカなことをする者は少ないだろう。
 そして南。街の南は大きな港だった。海に面したこの街には各地から様々な船が来航する。そうした水運があったおかげで街はここまで発展したのだった。したがって、犯人が船を持っているか空でも飛べないかぎり南からの脱出は不可能だ。
 最後に東側。東には、町のはずれに教会がぽつんと建っているきりだった。
が犯人やったら東から逃げるかな……。」
「へっ!? が犯人だべか!?」
 しばらく黙りこくって考え事をしていたの不意のつぶやきに、T-ボーンは正直に驚いた。
「違う違う! そうやなくて、犯人は街の東から逃げる可能性がいっちゃん高いんちゃうんかなってことや。」
 青年バンカーの突然の天然ボケに苦笑しつつもはそう告げ、
「街の東に行こう!」
と走り出した。
「なあんだ。びっくりしたっぺー。」
 T-ボーンも後を追った。

 夕暮れ時、それも街のはずれに人通りはほとんどなかった。寂しげな通りを駆け抜け駆け抜け、二人はようやく教会の塔を間近に見る位置まで来た。あの角を曲がれば教会はすぐだ。
 まさかそこで本当に犯人に遭遇するとは、さすがのも予想しなかった。二人の禁貨泥棒――アブラミーとスージー・ニックは彼らに背を向け、教会の前でなにやら嬉しそうにヒソヒソと話をしているところだった。
「見つけたで! アブラミー! スージー・ニック!!」
 泥棒たちが驚いて振り返ると、そこには先程自分たちをバカにした赤髪の青年と、探偵気取りの少年が立っていた。
「お、お前らなんでここに!?」
「すげえっぺ!! 本当にいたべさ!!」
「ほんまにおるとは……お前らもわかりやすい性格してんなあ。」
「なんだとっ!?」
 スージーがたちをにらみつけた。しかし、アブラミーはチッと舌打ちすると彼を制す。
「ここはずらがるぜ!」
「あ、こら、待て!」
 T-ボーンが走りより、行く手をはばむ。
「く、くそ……。」
「親分……」
「ええいこんな奴! ちゃっちゃとやっちまうぞスージー!」
「はい、親分!」
 二対一なら勝てると思ったか、アブラミーたちが戦闘態勢に入った。T-ボーンはというと、二人の男にひるむこともなく、かついでいた荷物の中から何かを取り出した。
ー! ちょっとこれ持っててくんろ!」
「へっ? おわっ!!」
 飛んできた物はT-ボーンの麻袋だった。何とかキャッチする。そして荷物を預け、身軽になったT-ボーンが持っていたのは大きな骨が二本連なったもの――おそらく彼の武器だけだった。さっきはあれをこの袋から取り出していたのだ。
「はああ……いくっぺよーー!」
 T-ボーンはそう気合いをかけるとその武器をブンブン振り回し始めた。そう、まるでヌンチャクのように。アブラミーたちは一瞬ひるんだ。だがそれもつかの間……
「覇ぁっっ!!」
 すぐわきを風が走り抜け、背後で何か大きな物音がするのをは聞いた。
「え……?」
 おそるおそる音のしたほうを振り向くと、T-ボーンの武器がそこにあった大きな木にぶつかって、虚しく地面に横たわっていた。
「あ、あっちゃー! またやっちまったべ!? くそー、なーんでこれいつも上手くいかないっぺ? いっつもあそこで手がすべんだあ……今度はすべり止めでもつけといたほうがいいべさ?」
 頭をかきながらそう言うT-ボーンを見て、もアブラミーたちも呆気に取られてしまった。だが二人組のバンカーはすぐにこれが絶好のチャンスだと気付いたようだ。アブラミーはにやっと笑い、
「バカめー!!」
 その巨大な手をT-ボーンめがけてまっすぐに振り下ろした。攻撃に気付いたT-ボーンはとっさに両腕を伸ばし、アブラミーの手を受け止める。自慢の技をいとも簡単に止められあせる男の巨体を、T-ボーンはそのまま投げ飛ばした。気合いとともに見事な一本背負いが決まった。
「す、すげえ!!」
 武器がなくてもここまで戦えるなんて、T-ボーンはよほど強いのか、アブラミーがよほど弱いのか、それともバンカーとは常にこういうものなのか、には判断がつきかねた。しかし次の瞬間、尊敬する親分を倒されたことに逆上したスージーが、T-ボーンの腹に一発拳を入れた。
「がはっ!」
 不意打ちによろめくT-ボーン。そのすきにアブラミーは再び体勢を整えた。T-ボーンがお返しをしようとスージーを思いっきり殴りつける。その攻撃はクリーンヒットしたがそれもつかの間、背後からアブラミーが襲いかかった。
「あかん……やっぱり一対二は不利や……。」
 アブラミーの攻撃を何とかかわしたT-ボーンを見てはつぶやく。自然、彼の視線は木の根元にあるT-ボーンの武器に移った。

 がやらなきゃ誰がやる。

 はその武器へ近寄った。
 近くで見るとそれはずいぶん大きな物だということが判明した。二本の骨の先端部が短い鎖でつながれている。やはりヌンチャクのように扱うものらしい。
「ぐっ……!」
 は骨ヌンチャクを両手で持ち上げようとしたが、意外に重かった。
「こ、こんなものをあんなに軽々と振り回してたのかっ……T-ボーンは……!」
 骨ヌンチャクをやっとかつぎ、彼は再び戦闘の場を見た。形勢は五分五分といったところだろうか。それにしても一対二であるにもかかわらず一歩も引いていないということなのだから、T-ボーンの強さにはやはり感心せざるを得ない。
 バンカーどうしの激しい戦いを目の当たりにして、は生唾をのんだ。このヌンチャクを届けるためにはどうしても彼らに近づかなければならないだろう。首筋を冷たい汗が流れる。
 だが彼は勇気を持った。T-ボーンとアブラミーの体格差から考えて長期戦は決して有利なものにはならないだろう。はもう一度自分に向かって叫んだ。

 がやらなきゃ誰がやる!!

 は重い骨ヌンチャクをかつぎ、そして一気にバンカーたちに近づいた。途中で怖気づかないように走り出す。
「T-ボーーン!!!」
 距離を見計らい、渾身の力をこめて、はT-ボーンめがけヌンチャクを投げた。あまりに勢いをつけすぎてヌンチャクを放すと同時に転んでしまったほどだ。だが彼は目の端にしかと見た。ヌンチャクの持ち主、青年バンカーがしっかりと彼の武器を受けとめたのを。
!!」
「てっ、てめえ余計なまねをっ!!」
 が起き上がろうと顔を上げると、アブラミーが怒りに満ちた顔で右腕を振り上げていた。
(ヤベェ、やられる!)
 今にも大男の鉄拳が飛んでくるかと思い、はぎゅっと目を閉じた。だが、攻撃はなかなか来ない。そっと目を開けると、
「サンキュー、!!」
自分と大男の間にT-ボーンがいた。アブラミーの拳は横入りしてきたT-ボーンの骨ヌンチャクによってしっかりと受け止められている。
 T-ボーンはちょっと振り向きに笑みを見せた。
は危ないから下がっててくんろ!」
 はうなずき、バンカーたちから離れた。やるべきことをやることができた。その思いが、不思議な感覚となって彼を満たしていた。
「このっ……野郎……! このまま押し潰してやる!!」
 アブラミーが自身の全体重を骨ヌンチャクにかけた。しかしT-ボーンはヌンチャクをしっかり握ったまま、その攻撃にはびくともしない。それどころか、次の瞬間に彼はヌンチャクを使ってアブラミーを吹っ飛ばしていたのだった。
「うわああっ!!」
「親分っ!」
 吹っ飛ばされたアブラミーを、スージーが慌てて支えに入る。それでも力及ばず、彼らは一緒になって転がった。
「T-ボーン強ぇっっ!!」
 が叫ぶとT-ボーンは振り向き、ガッツポーズをしてみせた。
「こ、小僧ー……!!」
 アブラミーたちがゆっくり起き上がる。遠目からでもよくわかった。彼らはキレている。
「うおおおーー! スージーーー!!」
「オッス! 親分!!」
 二人のバンカーがT-ボーンめがけて全速力で走り出した。二人で同時に攻撃をけしかけ一気にカタをつけるつもりだ。T-ボーンの顔から笑みが消え、赤く鋭い眼光で突進してくる敵を見据える。
「うおおおぉーーっっ!!!」
 間合いが十分に詰まった。T-ボーンは骨ヌンチャクをさっと両手で握り直し、そして大きく振り上げた!
「カルシウムクラーーッシュ!!!」

 ドゴオオッ!!!

 轟音がとどろいた。土埃がもうもうと上がり、には状況がよく見えない。最後にT-ボーンのヌンチャクが振り下ろされたのは確実なのだが……
 ようやく土埃がおさまってきた。煙の中に人影が見える。T-ボーンだ。
「T-ボーン!」
 仲間の無事を確認し、はT-ボーンに走り寄った。
「勝ってんな!」
「へへ。まあな!」
 T-ボーンの猛攻によって破壊された道路のガレキの中に、アブラミーとスージーは倒れていた。
「ち……ちくしょう…………」
「まだ喋れるでこいつら……。」
「ははは。でももう動けねえべさ! オラのカルシウムクラッシュの威力は抜群だからな!」
「うん。ほんまに凄かった。」
 下の地面がむき出しになった道路と、あたりに散らばったアスファルトの残骸を見下ろし、はそう言った。
(町長さんはあんまりええ顔せーへんやろけどな……)
 と、一瞬ガレキの中で何かが光った。もう一度よく目をこらしてみる。また光った。一瞬だけ、青く。
「何かある!」
「え?」
 はしゃがみ、先ほど何かが光った場所を探した。コンクリートの塊をどけると、それはあった。
「これは……」
「青い禁貨……!?」
 の手のひらの中で、それは沈む夕陽のわずかな残り陽さえも逃さずに、きらりと美しくきらめいた。
「こいつら、もう今から街を出るとこやってんや。あともうちょっと遅かったら……禁貨は永久に失われてたかもな。」
「だども、あんな戦いの真っ只中にあったっていうのに、これ、傷一つついてねーべ?」
「運が良かったか……それかこの泥棒たちがめっちゃ大事に持ってたんやろな。」
 とT-ボーンは黙って禁貨を見つめた。何度見てもきれいだった。
 と、背後でバタバタと足音がして二人はそちらを振り向いた。警官がこちらに走って来ているのだった。
「おい! さっきこっちでものすごい音が聞こえたんだが……ああっ!? そいつらは禁貨泥棒の犯人!? き、君たちは一体……」
 状況を飲み込めないその警官に苦笑しつつも、は事情を説明することにした。

 彼らは再び博物館にいた。今、ようやくが警官含め全員に事情を説明し終えたところだ。彼が話し終えてしばらくは誰も何も言わなかったが、やがて館長が口を開いた。
「なにはともあれ、ありがとう。本当によくやってくれた。犯人も捕まったし、禁貨も無事に帰ってきた……。」
 館長は手に持っている青い禁貨に視線を落とし、それからたちにむかってお辞儀をした。
「本当にありがとう……!」
「いっ、いや、たちは当然のことをしたまでで、なあ、T-ボーン!」
「え、ああ、そうだっぺ!」
 素直に照れる少年たちを見て館長はふっと微笑んだ。続けて警察官がの肩に手を置く。
「私どもからも礼を言わせてもらおう。犯人逮捕の協力、本当にご苦労様でした!」
 それから警察官は近いうちに賞状を与えたいとも言った。しかしT-ボーンは
「いんや、オラはすぐこの街を出ようと思ってるから、賞状なんていらないっぺよ。お構いなく、だっぺ。」
「そうか……それは残念だ。ふうむ……君はバンカーだね? ならばそれも仕方ないだろう。」
 こうして事件は解決していったのだった。

 とT-ボーンはそろって夜道を歩いていた。一段落するとすぐに家に帰るように促されたのだ。
「はあ! なんか今日はつかれたなあー。へとへとや。」
「そうだっぺなぁー。まあ、いろいろあったしな。」
「うんうん。T-ボーンマジで強かった。びっくりしたわー。」
「へへへ。そりゃオラだって、だてにバンカーやってるわけじゃねえべさ!」
「T-ボーンがおらんかったら、この事件は解決せぇへんかったな、きっと。」
 が笑みを見せてそういうと、T-ボーンはちょっときょとんとしたが、すぐに微笑み返した。
「けど、の推理がなくても、禁貨は戻ってこなかったっぺ。」
 ははっとした。実は暗号文が解けていないことを思い出したのだ。
「T-ボーン、あのさ。言うの忘れとってんけど……。」
 T-ボーンが、ん? と顔を向ける。は小さな声でぼそりといった。
……実は、あの暗号解かれへんかってん……。」
 T-ボーンは少しの間何も言わなかったが、急に笑い出した。
「あはは! 、そんなこと気にしてたんだべか?」
 彼の意外な反応には少し戸惑ってしまった。T-ボーンは満面の笑みのまま続ける。
「いいでねーか、別に。結局めでたしめでたしで終わったんだしな! 、結果オーライって言葉知らねえっぺ? 終わりよければ全て良しだべさ。それに……。」
 T-ボーンの赤い瞳がを見つめた。きれいな澄んだ瞳だった。
「オラ、暗号のことも言ったつもりだたけど、それよりあれ。オラが思わず博物館を飛び出した時のの推理! 犯人たちがどこへ逃げたかって推理したやつ! ありゃホントにすごかったっぺー! さっすがってオラ感心したべ。」
「そ、そうかな……?」
「うん、そうだっぺ!」
 T-ボーンの自信満々の言葉に、もつい微笑んでしまったのだった。
 たちが道を歩きながらそうやって話している間にも、空で優しく光を放つ星たちはゆっくりとその居場所を移していった。時間が過ぎる。また新しい時が生まれてくる。だが、過ぎ去る時間のうねりは時として友との別れの時と重なった。二人の少年の歩む道は、全く違うのだから。
 十字路に来たとき、彼らは立ち止まった。
「ここでお別れだっぺ。」
「ああ。そうやな……。T-ボーン、今日はありがとう。ほんまに……。」
「いやあ、オラもこの街で今日あったこと、すっごく楽しかったっぺさー!」
 激しく戦ったことなどを笑顔で「楽しかった」と言うのもどうかと思うが、まあそれも彼の人柄なのだろう。
 と、T-ボーンがさっと右手を出す。
「それじゃあ、元気でな。」
「ああ! T-ボーンも頑張れよ!」
 はT-ボーンの手をしっかりと握り返した。
 そして二人の手が離れると、T-ボーンはゆっくりと歩み始めた。の行く道とは違う方向へ。
「じゃあなーー!」
 くるりと振り返って大きく手を振るT-ボーンにむかって、も手を振り返した。やがて、青年バンカーは闇に吸い込まれて消えていき、一人になったはほうっとため息をついた。空を見上げると月が輝き、その周りでは星が瞬いていた。
「あっ。」
 がつぶやく。
「し、しまった! 門限めっちゃ過ぎてる!」
 そして彼は家へ向かい、一目散に走り出した。母さん、怒ってるやろうなあ。そんなことも思ったが、しかし彼は微笑んでいた。もちろん、今日のことを思い出して。
「っしゃあ! どんな難事件でも、が解決やーーっ!」
 静かなこの港街の夜に、の声が高らかに響いた。


Fin.



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