「くらえー!18マシンガン!」
「甘ーい!108マシンガン!」



あれは、確かに恋だった 〜リゾット視点〜




「ぐあっ!!」
「よしっ!」

鋭い蹴りに吹っ飛ばされて地面に尻餅をつくと、
正面に立っていた少女がオレの方を見てニヤッと嬉しそうに笑った

「まだまだ甘いねリゾット!・・・まあ、パエリア先生の一番弟子のが相手じゃ、しょうがないか〜」
「誰が『一番弟子』だ嘘つけ!オレより1歳年上なだけだろ!」
「あら、1歳でも年上よ!敬いなさーい!」

そう言ってまたケラケラと笑い出す

・・・目の前で笑っている、人物の名前は
今は武術の時間で、オレは彼女と練習試合をして負けてしまったのだった

「これでの29連勝ね!」
「くっそー・・・!」

悔しくて奥の歯をギリリと噛む


・・・1ヶ月前、彼女は初めてこの武術教室に現われた
家の都合でグランシェフ王国に来たとかで、
街を散策していたら偶然闘技場にたどり着いたのだと話していた

「みなさん、新しい仲間のです。仲良くするように」
「はーい!」
「はじめましてです。よろしくお願いします!」

面白そうだという理由で習練に混ざり、門下生を次々と倒していく彼女
父親がバンカーだと言っており、強さに相当の自信があったらしい

「次、と手合わせしたい人はいませんか?」
「先生!オレが行きます」

パエリア先生の問い掛けに、手を上げて一歩前に出る

オレだって、自分の強さには自信があった
こいつらの中でオレは一番強かったし、
男ならともかく、女の子になんか負けるわけないと思っていた

なのに・・・

「そこまで、勝負あり!この勝負、の勝ちですね」
「やった!」
「嘘だ・・・」

オレは、彼女に負けてしまった

今まで大人の人に負けた事はあったけれど、
同じくらいの年齢のやつに負けるのは、生まれて初めての事だった
しかも、男じゃなくて女の子なんかに・・・だ

「勝負だ!」
「望むところだよリゾット!」

負けたのが悔しくて悔しくてたまらなくって、
それから彼女と顔を合わせるたびに、勝負を挑むようになった

・・・しかし、どうしても彼女に勝つ事が出来ず、
あと一歩のところでいつも負けてしまうのだった

がここに来るまでは、オレが一番強かったハズのに・・・


「策も無しにに勝とうなんて、考えが甘いよリゾット」
「くっそー!108マシンガンさえ習得出来れば、になんか負けないんだからな!」
「あれっ?パエリア先生が直々に教えてくれてるんじゃなかったっけ〜?」
「うっ!そ、それは・・・」

苦し紛れに言った言葉に対して、意地悪な笑みを浮かべながらそう聞いてきた

「ま・・・まだ練習中なんだよ!」
「ふーん、そうなんだ〜」

ゴニョゴニョと口ごもるオレを横目に見ながら、彼女はニヤニヤと笑っている

同じぐらいの時期に練習を始めたハズなのに、
彼女はとっくの昔に108マシンガンを習得してしまっていた
パエリア先生いわく、は技の飲み込みが異常に早いらしい

「リゾットも早く、108マシンガンが使えるようになるといいねぇ」
「う、うるさい!もう一度勝負だ!」
「おっけー、掛かってきなさーい!」
「2人ともそこまで!」
「あたっ!」
「いてっ!」

もう一度と戦おうとしていたら、頭をコツッと叩かれた
たいして痛くはないものの、気持ち的になんだか痛い

「パエリア先生!」
「ふたりとも練習試合はそこまでにしなさい。残りは基礎練習の時間ですよ」
「え〜!?先生、試合させてよ試合!!」
「駄目です」

先生にそう頼んでみたものの、キッパリと断られてしまう

「練習試合も大切ですが、基礎練習はそれ以上に大切なんですよ。・・・分かりましたか?」
「・・・はい」
「リゾット、先生に怒られてやんの〜!」
も、あまりリゾット様をからかうんじゃありません!」
「う・・・はーい」

パエリア先生に怒られて、彼女も渋々といった感じで返事をした

「さ、習練を始めますよ!」
「はーい」

先生の号令でみんな一列に並び、正拳突きをし始める

「・・・・・・おい」
「・・・・・・。」
「・・・なあ、
「・・・なによ」

パエリア先生にバレないように小声で隣の彼女に話し掛けると、
不機嫌そうにジロッと視線だけを動かしてこちらを見た

「あのさ・・・今日は負けたけど、明日はオレの勝ちだからな!」
「明日・・・ね」

彼女はそう独り言のように呟いて、意味ありげに口元を歪ませる

「何笑ってんだよ気持ち悪い」
「・・・ねえリゾット」
「な、なんだよ・・・」

急に真剣な表情をして、顔をこちらに向けてきた
その真っ直ぐな瞳に、胸が一瞬ドキッとしてしまう

「もし、が消えた時は・・・見つけてくれる?」
「は・・・はあっ!?」
「リゾット様、どうかしましたか?」
「い、いえ!なんでもないです!!」

驚いてつい大声をあげてしまい、慌ててそれを誤魔化した

「なんだよいきなり!」
「いいでしょ別に。・・・で、どうなのよ」
「あー・・・たぶん、見つけてやるよ」
「ホント!?」

オレの返答に、嬉しそうな表情を見せる

「お、おう。なんたって、お前はオレのライバルなんだからな!」
「ライバル・・・そっか、そうだよね」
「ああ!・・・けど、なんでそんな事聞いてく」
「今日の習練はここまで!」
「あ、終わった」

オレが発した疑問の声は、終了を知らせる先生の声にかき消されてしまった

「ありがとうございましたー!」
「あ、ありがとうございました・・・」
「・・・リゾット」

次々と帰っていく仲間の門下生達を見ながら、
がオレの方を振り返る

が消えたら、絶対見つけてよ?約束だからね!!」
「お、おう。分かった!」
「うん!じゃあリゾット、またね!」
「また明日なー!・・・変なやつ」

小さくなっていく彼女の姿に、手を振りながら呟いた
急にあんな事を行ってくる意味が分からない

が消えたら?
どーせ明日も来るくせに

「パエリア先生ー!108マシンガン教えてー!!」
「いいですよリゾット様。・・・どうしても、に勝ちたいんですね」
「うん!オレ、明日こそに勝ってやるんだ!!」

彼女が帰った後もオレはたくさん練習して、
明日に会うのが待ち遠しかった







「・・・なんでだよ」

次の日、は武術教室に来なかった

次の日も、その次の日も・・・
文字通り、彼女はどこかへ消えてしまったのだ

「みなさんにお話があります。・・・は、家の都合でこの教室を辞める事になりました」

彼女がいなくなって数日後、パエリア先生が神妙な顔をして話してくれた

彼女の父親はバンカーで、
バンカーはひとつの場所にとどまれないという事を

・・・つまり、は父親と一緒に旅に出たのだ

「そんな・・・」

パエリア先生の話を聞いて、彼女にもう会えないと気付いた時
オレは人目もはばからずに泣いた

頭の中はグチャグチャで、胸が締め付けられたようにギュウッと苦しくて、
声にならない声を出しながら、一日中延々と泣き続けたよ

「うわああぁぁぁぁぁ・・・」

こんな気持ちになるのは生まれて初めての事で、
なんと言えばいいのか自分でもよく分からなかった







・・・大人になった今ならば、あの時の気持ちがよく分かる

オレは、失恋をしたんだ

変に張り合って、突っ掛かって、ムキになって、ケンカして・・・
ずっとライバルだと思っていたけれど
自分でも気付かないうちに、オレはに恋をしていたんだ

が消えたら、絶対見つけてよ?約束だからね!!』

そう言ってオレの前から消えてしまった
彼女は今、何処にいるのだろう?

同じ空を見上げているのだろうか?
それとも、どこかで笑っている?

「・・・見つけてやるよ」

自分に言い聞かせるように呟いて、それから拳をギュッと握った
どんなに遠く離れていても、オレは必ず見つけてみせる

それが・・・いや、




初恋の人との約束だから





Fin.



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